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「選ばれる企業」になるための障害者雇用ブランディング|「数合わせ」を卒業し、優秀な人材を引き寄せる情報発信の極意

この記事の内容
はじめに:「求人を出せば人が来る」時代の終焉

かつての障害者雇用において、企業側は「募集さえかければ、誰かしら応募が来るだろう」という強者の立場にありました。しかし、2026年現在、そのパワーバランスは完全に逆転しています。法定雇用率の段階的な引き上げにより、企業の求人数は過去最大規模に膨らむ一方で、求職者側は「自分を本当に戦力として扱い、適切な環境を整えてくれる企業」をシビアに選別するフェーズに入っています。
もはや、単に求人媒体に枠を確保するだけでは、優秀な人材に出会うことは不可能です。
2026年採用市場のリアル:売り手市場で加速する「企業の選別」
現在の採用市場を一言で表すなら「超・売り手市場」です。求職者は、ハローワークや大手ナビサイトだけでなく、SNS、口コミサイト、企業のオウンドメディアを縦横無尽に活用し、裏付けのない「アットホームな職場です」といった美辞麗句を即座に見抜きます。
彼らが求めているのは、「障害があるから優しくしてくれる会社」ではなく、「自分の障害特性が業務のボトルネックにならない仕組みがあり、プロとして評価される会社」です。このニーズに応えられない企業は、採用の土俵にすら立てないのが現実です。
なぜあなたの会社に応募が来ないのか?「情報不足」が最大の障壁
「条件は悪くないはずなのに、なぜ応募が来ないのか」と悩む企業の多くに共通しているのは、圧倒的な「情報不足」です。
- 具体性の欠如: 「合理的配慮については応相談」という定型句。
- 活躍の不透明さ: 実際にどのような障害のある社員が、どんな業務で成果を出しているかの記述がない。
- 物理的・ソフト的環境の不明点: デスクの仕様、使用ツールのアクセシビリティ、指示系統のルールがわからない。
求職者にとって、情報がないことは「リスク」と同義です。「入ってみたら環境が合わずに即離職」という悲劇を最も恐れている彼らにとって、情報の出し惜しみは、そのまま「応募しない理由」に直結します。
本記事の結論:ブランディングとは、嘘をつくことではなく「働くリアル」を構造化して伝えることである
障害者雇用におけるブランディングとは、自社をキラキラと着飾ることではありません。自社の「できること」と「できないこと」を整理し、「どのような特性の人なら、自社の環境で最高のパフォーマンスを出せるか」を構造化して伝えることです。
「数合わせ」の雇用を脱却し、経営に貢献する優秀な人材を引き寄せるためには、広報戦略を「福祉的なお願い」から「ビジネス的な情報開示」へとシフトさせる必要があります。
1.求職者が一番知りたい「配慮の境界線」の開示
求職者が応募ボタンを押す前に、最も知りたい、かつ最も不安に思っているのは「この会社は、自分の『できないこと』をどこまで許容し、補ってくれるのか」という境界線です。
曖昧な「相談に応じます」はNG:具体的に「できること・できないこと」を明文化する
求人票に書かれた「合理的配慮:応相談」という言葉は、求職者の目には「何も準備ができていません」と映ります。ブランディングに成功している企業は、この境界線を驚くほど明確にしています。
- 明文化の例: 「電話応対は完全免除可能です」「ただし、マニュアルを読み込む読解力は必須となります」
- メリット: できないことを明確に伝えることは、一見すると応募を減らすように思えますが、実はその環境に合致する層(ターゲット)からの信頼度を飛躍的に高めます。
インフラ情報の透明性:オフィス環境、使用ソフト、リモート可否をスペックとして提示
発達障害や身体障害のある方にとって、職場の物理的・デジタルのスペックは「能力を発揮できるかどうか」を左右する死活問題です。
- 物理環境: 「可動式デスク完備」「静音エリアあり」「照明の明るさ調整可」
- デジタル環境: 「指示は原則Slack(チャット)」「音声入力ソフト導入済み」「読み上げソフト(スクリーンリーダー)動作確認済み」 これらを「物件情報」のように詳細にスペックとして提示することで、求職者は働く姿を具体的にイメージできるようになります。
「特別扱い」ではなく「標準装備」をアピール:社内ルールとしての合理的配慮
最も強いアピールになるのは、配慮が「一部の人のための例外」ではなく、「全社的なルール」として組み込まれていることです。
- 例: 「聴覚障害者がいるから筆談する」のではなく、「情報の透明性を高めるために、会議は全件自動文字起こしを行い、議事録を共有するルールです」といった発信です。 「配慮されている」と感じさせるのではなく、「この仕組みがあるから自分は普通に働ける」と思わせることが、心理的ハードルを下げる鍵となります。
2.「福祉」ではなく「ビジネスパートナー」として見せる表現のコツ

採用サイトやパンフレットの雰囲気から「この会社にとって、障害者はケアされる対象なのだな」と感じさせてしまうと、意欲的な優秀層ほど敬遠してしまいます。ブランディングの鍵は、徹底して「ビジネス上の対等なパートナーシップ」を演出することにあります。
写真の選び方:守られている姿ではなく「アウトプットを出している姿」を撮る
視覚情報は、文章以上に雄弁にメッセージを伝えます。障害者雇用の広報写真でありがちな「上司が優しく肩に手を置いている姿」や「談話室で微笑んでいる姿」は、時に「保護と被保護」の関係を強調しすぎてしまいます。
- 選ぶべき構図:
- 真剣な横顔: デュアルディスプレイに向かってコードを書いている姿や、複雑な集計表を作成している手元。
- 議論の輪: チーム会議でホワイトボードを前に意見を述べている、あるいは付箋を貼ってアイデア出しに参加している姿。
- 狙い: 「守られている人」ではなく「価値を生み出している人」として映し出すことで、プロフェッショナルとしての自負を持つ求職者の共感を呼びます。
言葉選びのアップデート:受動的な表現(〜してもらう)から能動的な表現(〜を担う)へ
コピーライティングにおけるわずかな言い回しの差が、読後の印象を大きく変えます。「福祉的なニュアンス」を排除し、「戦力としてのニュアンス」に置き換えます。
- 受動的(NG): 「〇〇の業務をお手伝いしていただきます」「配慮を受けて働けます」
- 能動的(OK): 「〇〇の工程の責任を担っていただきます」「特性に合わせた環境を活用し、成果を最大化できます」
- 解説: 「お手伝い」という言葉は、責任の所在を曖昧にし、キャリアの限界を感じさせます。「責任」「活用」「完遂」といったビジネス用語を意識的に使うことで、職場のプロ意識の高さを伝えます。
インタービュー記事の鉄則:障害の話で終わらせず、仕事の「こだわり」や「成果」にフォーカスする
社員インタビューの構成も、テンプレート化された「病気の苦労話→今の会社の優しさ」という感動路線から脱却すべきです。
- 構成の黄金比: 障害の経緯や配慮の話は全体の2〜3割に留め、残りの7割は「今の業務でどのような工夫をして効率を上げているか」「最近達成したプロジェクトの成果は何か」に割きます。
- プロとしての深掘り: 「Excelの関数を駆使して、従来3日かかっていた集計を3時間に短縮した」といった具体的なスキルの話や、「お客様の声を分析して改善案を出した」といった成果にスポットを当てます。
- 狙い: これにより、「この会社に入れば、障害を言い訳にせず、プロとして磨かれるチャンスがある」という強力なメッセージになります。
3.SNS・オウンドメディアを活用したコストゼロのブランディング術
2026年、優秀な求職者は「企業の公式ホームページ」以上に、「社員の生の声」を信じるようになっています。高額な採用広報予算をかけずとも、既存のプラットフォームを賢く使うだけで、自社のファンを増やすことは十分に可能です。
Noteやブログ:社員が発信する「障害者雇用の舞台裏」が最強の安心材料になる
Noteや自社ブログの最大の武器は、ストーリー性です。完成された成果だけでなく、そこに至るまでの「試行錯誤」を発信することが、求職者にとって最大の安心材料になります。
- 発信すべきコンテンツ:
- 「発達障害のある新入社員のために、マニュアルを動画化したプロセス」
- 「聴覚障害のある社員との会議で、どの文字起こしツールが一番使いやすかったか比較してみた」
- 効果: 企業が完璧である必要はありません。「課題に対して、社員同士が知恵を絞って解決しようとしている姿勢」が見えるだけで、求職者は「ここなら自分も相談できそうだ」と確信します。
X(旧Twitter)やLinkedIn:現場の「生の声」や「改善のプロセス」をリアルタイムで届ける
フロー型のSNSでは、「透明性」と「スピード感」をアピールします。特に関心の高い層がフォローしているLinkedInや、拡散力の高いXは、潜在層へのアプローチに最適です。
- 運用のコツ:
- 「今日は〇〇さんのリクエストで、オフィスの照明に遮光フィルムを貼りました。視覚過敏への配慮、一つ前進です!」といった、日常の小さな改善を写真付きでアップします。
- メリット: こうした小さな発信の積み重ねが、求職者のタイムラインに日常的に流れることで、「この会社は常にアップデートしている」というブランドイメージが刷り込まれていきます。
採用ピッチ資料の公開:障害者向けに特化した「入社ガイド」をWebで公開するメリット
「採用ピッチ資料」とは、会社概要や文化、制度を1枚のドキュメント(スライド)にまとめたものです。これを障害者向けにカスタマイズして公開します。
- 盛り込むべき項目:
- 入社1ヶ月のスケジュール: どんな研修があり、どのタイミングで面談があるか。
- 合理的配慮の申請フロー: 入社後、誰にどうやって不便を伝えればいいか。
- 通院・体調管理のルール: 有給休暇の取得状況や、中抜けの可否。
- 公開の効果: 応募前にこの資料を読んでもらうことで、ミスマッチが激減します。「ここまで情報を開示してくれるなら安心だ」という誠実さが、最後のひと押しとなって応募に繋がります。
4.「入社後のギャップ」を防ぐためのネガティブ情報の出し方
採用ブランディングにおいて、つい「良い面」だけを強調したくなりますが、障害者雇用においてそれはもっとも危険な罠です。入社後に「聞いていた話と違う」というギャップが生じると、早期離職だけでなく、SNS等でのレピュテーション(評判)リスクにも繋がりかねません。誠実なネガティブ情報の開示こそが、最強の信頼を生みます。
課題も隠さず伝える:「現在、この部分は改善を模索中です」という誠実さが共感を生む
どの企業にも「まだ整備が追いついていない部分」は必ずあります。それを隠さずに伝えることは、決してマイナスではありません。
- 「未完成」を伝えるメリット: 「精神障害の方の受け入れ実績はまだ少なく、現在、外部ジョブコーチと連携しながらマニュアルを整備している最中です」と正直に伝えることで、求職者は「一緒に環境を作っていける」という納得感を持って入社できます。
- 誠実さの演出: 完璧を装う企業よりも、課題を認識し、改善しようとしている企業の方が、障害のある方にとっては「対話の余地がある」と魅力的に映ります。
カルチャーマッチの重視:自社のスピード感やコミュニケーション文化を事前に伝える
「障害への配慮」以前に、その会社の「社風」が合うかどうかが定着の鍵を握ります。
- ミスマッチの回避: 例えば、「うちはスタートアップなので、朝令暮改は当たり前。変化を楽しめる人を求めています」といったスピード感を伝えておけば、環境の変化に強い不安を感じる層は事前に別の選択肢を考えることができます。
- 文化の具体化: 「チャットが活発で通知が多い」「会議は短時間で結論を出す」など、日々のコミュニケーションの密度や性質を伝えておくことで、本人が自分の特性と照らし合わせる材料を提供します。
ターゲット層の絞り込み:全員に好かれようとせず、「自社で活躍できる層」に深く刺す
万人に向けたメッセージは、誰の心にも残りません。ブランディングの目的は、応募者を増やすことではなく、「自社で活躍できる人」に応募してもらうことです。
- 選別の勇気: 「静かな環境で黙々と作業したい方には向かないかもしれませんが、チームでわいわい議論しながら進めたい方には最高の環境です」といった表現で、あえてターゲットを絞り込みます。
- 尖った魅力: 特定の層に向けた「深すぎるほどの情報開示」は、その条件に合致する優秀な層に対して、「ここは自分のための場所だ」という強烈な帰属意識を入社前から持たせることができます。
5.事例紹介:情報発信の刷新だけで応募数が5倍になったD社の成功例

「自社の魅力が伝わっていない」という危機感から、情報発信のあり方を根本から見直した中堅IT企業・D社の事例を紹介します。同社は、情報の「量」ではなく「解像度」を上げることで、採用市場でのポジションを劇的に変えました。
状況:大手ナビサイトに出しても、反応が薄くミスマッチが多かった
D社は以前、大手就職ナビサイトに多額の費用をかけて求人を掲載していました。しかし、得られる反応は芳しくありませんでした。
- 課題: 応募数自体が少ないだけでなく、たまに応募があっても「じっくり話を聞くと、自社のスピード感や環境とは合わない」というミスマッチが多発。
- 原因: 掲載していた情報は、他社と似たり寄ったりの「アットホームな職場」「障害に理解があります」という抽象的なものばかりで、求職者が「自分に合うかどうか」を判断できる材料が皆無だったのです。
施策:「配慮事項100本ノック」を公開し、現役社員の1日を動画で紹介
D社は、ナビサイトへの依存を減らし、自社の採用サイトを「究極のQ&Aサイト」へと作り変える決断をしました。
- 「配慮事項100本ノック」の公開: 過去に求職者や社員から出た不安な点や質問を100項目リストアップし、すべてに回答を掲載しました(例:「急な体調不良での当日欠勤はどう扱われるか」「聴覚過敏向けの耳栓使用は許可されているか」など)。
- 「働く姿」の動画化: 障害のある現役社員に密着し、朝の出勤からランチ、午後の集中作業、退社までの1日を3分の動画にまとめました。過度な演出はせず、あえて「にぎやかなオフィス音」や「実際のチャット画面(ぼかし入り)」を映し、リアリティを追求しました。
結果:自社にマッチする層からの応募が急増し、採用コストが大幅ダウン
施策を開始して半年後、D社の採用は劇的な好転を見せました。
- 応募数が5倍に: 情報を詳細に開示したことで、逆に「ここなら安心して働ける」と確信した潜在層からの応募が殺到しました。
- ミスマッチの解消: 面接に来る時点で、求職者が自社の社風や配慮の限界を理解しているため、選考がスムーズになり、内定承諾率も向上。
- コスト削減: ナビサイトへの高額な掲載料に頼らずとも、自社メディアを通じた応募が増えたため、一人あたりの採用単価は従来の3分の1以下にまで下がりました。
6.まとめ|ブランディングは最高の「合理的配慮」の第一歩
「選ばれる企業」になるためのブランディングとは、着飾ることではなく、徹底した「誠実な開示」のことです。
総括:透明性を高めることが、最も優秀な人材への敬意になる
2026年の採用市場において、情報の不透明さは不信感を生むだけです。自社の強みも、そして現在抱えている課題も隠さずにさらけ出す。その透明性の高さこそが、プロフェッショナルとして自立したいと願う優秀な障害者人材にとって、何よりの「敬意」として伝わります。
「数合わせ」のために人を集めるのではなく、自社のビジョンに共感し、環境を活かしきれるパートナーを探す。その姿勢が、結果として最強の採用ブランディングを作り上げます。
結びに:2030年に向けて、あなたの会社が「選ばれる」ための最初の一歩
2030年、法定雇用率はさらに引き上げられ、人材獲得競争は今以上に熾烈を極めているでしょう。その時、生き残っているのは、今日から「情報の翻訳」と「誠実な発信」を始めた企業です。
まずは、社内の「当たり前」になっている配慮を一つ、言葉にすることから始めてみませんか?その一言が、まだ見ぬ優秀な社員との出会いを引き寄せる呼び水になるはずです。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







