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【経営者の思い込み】障害者雇用で「業務が切り出せない」壁を壊す方法:採用戦略と育成ロードマップ

この記事の内容
はじめに:「切り出し困難」の壁。農園委託の限界と社内雇用の価値

デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む大企業にとって、障害者雇用は今、大きな構造的な課題に直面しています。「法定雇用率を達成したいが、社内に任せられる仕事がない」というジレンマです。
記事の導入:単純作業の消滅と、外部委託の増加
多くの企業が、単純作業の消滅により「業務が切り出せない」と判断し、農園委託などに頼る現状。
- 現状: かつて障害者雇用の受け皿だった「データ入力」「書類整理」といった単純な定型業務は、RPAやAIによってほぼ消滅しました。
- 企業の選択: 雇用率達成のため、企業は外部の農園型事業や福祉施設への委託に頼らざるを得なくなっています。
- 課題: しかし、この外部委託は、社員の能力や専門性が活かされず、「自社のコアビジネスへの貢献」が実現できないという、組織のモチベーションと人材戦略上の大きな限界を抱えています。
記事の結論:業務創出が難しいのは「社員への能力の過小評価」と「育成の放棄」という思い込みが原因。採用戦略と育成投資でこの壁は必ず乗り越えられる
業務創出が難しいのは「社員への能力の過小評価」と「育成の放棄」という思い込みが原因です。
- 誤った前提: 多くの企業が、「障害者社員には単純作業しか任せられない」という誤った思い込みを持ち、「育成すれば能力が伸びる」という可能性を最初から諦めてしまっています。
- 真の解決策: 業務を「切り出す」のではなく、「社員の特性を活かして再構築する」戦略が不可欠です。「緻密な集中力」といった特性に、「Excel VBA」などのスキルを投資することで、AIが苦手とする「監査・判断」という高付加価値業務を、自社内で創出することは必ず可能です。
このコラムでは、この「思い込みの壁」を壊し、障害者雇用を「コスト」から「競争力」に変えるための具体的なロードマップを提示します。
1. 外部委託(農園)の限界と社内雇用への回帰
法定雇用率達成のため、外部の農園型雇用や作業所への委託は手っ取り早い手段に見えます。しかし、これらは「雇用」の数値を満たす一方で、「人材戦略」の観点から見ると、組織に大きな課題を残します。
外部委託の課題:エンゲージメントと離職リスク
自社のコア業務から切り離された環境での就労は、社員の帰属意識と貢献意欲の低下を招きます。
- 外部委託では社員の会社への帰属意識が育たず、貢献感の欠如が間接的な離職リスクとなること:
- 孤立: 農園や外部施設で働く社員は、本社の同僚との接点や経営層との交流が乏しくなり、「会社の一員である」という帰属意識を育むことが困難になります。
- 貢献感の欠如: 業務内容が会社のコアな事業と結びついていないと感じるため、「自分の仕事が会社の成長に繋がっている」という貢献感を得られません。
- 結果: エンゲージメントが低迷し、より給与や成長機会のある他社へと流出する間接的な離職リスクを高めます。これは、採用コストの無駄につながります。
社内雇用の最大の価値
社内で直接雇用し、適切な業務に配置することは、社員個人の成長だけでなく、組織全体にポジティブな効果をもたらします。
- 社員の能力が活きることでエンゲージメントが向上し、組織全体の活力と生産性が向上するメリット:
- ダイレクトな貢献: 社内の業務フローの中で能力を発揮することで、社員は自身の仕事が売上や業務効率化に直接繋がっていると実感できます。これがエンゲージメントの向上に直結します。
- イノベーションの促進: 障害特性を持つ社員独自の「視点」(例:マニュアルの矛盾点の指摘、データ処理の正確性への執着)は、健常者が見落としがちな業務改善のヒントをもたらします。
- 組織の活力: 多様な人材が共に働く環境は、健常者社員のダイバーシティ理解を深め、組織全体の活力と柔軟性を高めます。
雇用を「義務」で終わらせず、「成長の機会」と捉えることが、社内雇用の真の価値です。
2. 「業務が切り出せない」のはなぜか?人事と現場の思い込みの正体
企業が「切り出す業務がない」と諦めてしまう根本原因は、客観的な業務構造よりも、経営層や現場マネージャーが持つ古い「思い込み」にあります。この意識の壁こそが、社内雇用の最大の障壁となっています。
思い込み1:「障害者は単純作業しかできない」
最も根深い思い込みであり、社員の潜在能力を過小評価している視点です。
- 社員の潜在的なスキルや知的能力を過小評価している視点:
- 現実: 多くの企業が、障害者雇用=「データ入力」「ファイリング」という過去のイメージに縛られています。DXでこれらの単純作業が消滅したため、「もう任せる仕事がない」と判断してしまいます。
- 真実: 障害を持つ社員の特性(ASDの緻密な集中力、精神障害の論理的な分析力)は、AIが苦手とする「監査」や「判断」といった高付加価値業務にこそ活かせます。この知的な潜在能力を見落としています。
思い込み2:「育成コストは高すぎる」
人材育成を「投資」ではなく「負担」と捉えることで、優秀な人材の獲得機会を逃しています。
- 育成を「手間」と捉え、投資に対する長期的なリターンを考慮していないこと:
- 懸念: 「未経験者を採用し、専門スキル(Excel VBA、データ分析)を教えるには、現場社員の工数や費用がかかりすぎる」という懸念です。
- 戦略的失敗: 育成を短期間の「手間」として計算し、長期的なリターン(社員の定着、外部委託費用の削減、業務品質の向上)を考慮していません。障害者雇用で最もコストがかかるのは「再採用コスト」です。初期の育成投資こそが、この再採用コストを防ぐための最も合理的な手段です。
思い込み3:健常者の役割シャッフルへの抵抗
業務の再構築は、既存の社員の働き方を変えるため、現場からの抵抗を受けやすい側面があります。
- 健常者社員の業務を見直し、切り出しの作業を伴うことへの現場の抵抗:
- 抵抗の原因: 「健常者の社員がやっている業務を、障害者に任せるのはおかしい」という心理的な抵抗や、「自分の業務を誰かに教えるのは面倒だ」という業務負荷の増加への懸念です。
- 解決策: 業務の切り出しは、「付加価値の低いルーティン」をなくし、健常者社員を「戦略的なコア業務」に集中させるための役割の再定義であるというメッセージを、経営層が強く発信する必要があります。
この3つの「思い込み」の壁を壊し、「育成投資こそが未来の戦力を確保する鍵である」という意識へ変革することが、人事と現場に求められています。
3. 【戦略的転換】「切り出す」から「スキルを前提に創る」へ

DX時代において、障害者雇用を持続可能なものとするためには、「業務が空くまで待つ」という受動的な姿勢を捨て、「能力を最大限に活かせる業務」を能動的に創出する戦略が不可欠です。この転換は、採用の軸を「スキル」に置くことから始まります。
スキル重視の採用戦略への転換
従来の「業務の切り出し」は、社内に残った付加価値の低いルーティンを探すことが目的でした。これからは、「自社の課題を解決できる能力」を持つ人材を採用する戦略が必要です。
- 業務を創出してから採用するのではなく、「このスキル(Excel VBAなど)を持つ人材を採用する」と、採用の軸をスキルに置くこと:
- 旧戦略(受動的): 「切り出す業務はないか?」→「仕事がないので、誰でもできる作業を委託しよう」
- 新戦略(能動的): 「AIが苦手な監査業務がある。これにはExcel VBAや論理的思考力が必要だ。このスキルを持つ人を採用しよう」
- 効果: 採用の軸を「障害特性」から「能力」に置くことで、企業は自社の成長に直結する専門的な戦力を獲得できます。
企業内での育成体制の確立
DX時代の業務は高度化しているため、入社時点で完璧なスキルを持つ人材は稀です。企業側が育成へのコミットメントを持つことで、ポテンシャル人材の獲得が可能になります。
- スキルがない人材でも、OJTや専門研修を通じて自社内で育成する「教育へのコミットメント」の重要性:
- 戦略: スキル不足を理由に不採用にするのではなく、「採用後に育成する」という覚悟を持つことが重要です。
- 具体的投資:
- OJTの強化: 指導担当者を固定し、特性に合わせた文書化された教育プログラムで、業務知識を体系的に教える。
- 専門研修の予算確保: Excel VBA、データ分析の基礎、ITパスポートなどの実務直結スキルを学べる外部研修費用やe-ラーニングシステムの予算を確保する。
- 効果: 企業が育成にコミットすることで、入社への意欲が高いポテンシャル人材を確保でき、社員は「自分は戦力として期待されている」と感じ、エンゲージメントが向上します。
この戦略的転換こそが、障害者雇用をコストから「競争優位性」に変えるための鍵となります。
4. 業務再構築の具体策:特性を活かす高付加価値業務の創出
DX時代に自社内雇用を成功させるには、AIが代替できない「人間の責任」と「特定の特性」が求められる領域に、障害を持つ社員を戦略的に配置することが不可欠です。これにより、障害者雇用はコストではなく、企業の品質と成長に貢献する「戦力」となります。
① AI監査・QA職の創出
自動化されたプロセスの「最終的な信頼性」を担保する、「人間による最後の砦」を創出します。
- 戦略: RPA(ロボット)が処理した後のデータの結果に対し、「本当に正しいか」という責任を持つ最終的な監査役を担ってもらいます。
- 特性の活用: 発達障害(ASD)の「緻密な集中力」と「ルールへの強いこだわり」が、この業務で最大限に活かされます。他の人が見逃すようなAIの誤認識やデータの論理的な矛盾を見つけ出す力は、企業の信用維持に不可欠です。
- 具体的な職務: AI-OCRの読み取り結果と原本の最終照合、RPAの処理結果に対する高精度なデータ整合性チェック。この職務は、単独作業で完結しやすく、静かな環境が確保しやすいため、特性とも相性が良いです。
② マニュアル標準化・教育コンテンツ制作
複雑な業務フローを、誰でも理解できる明確な手順に変換し、組織全体の生産性向上に貢献します。
- 戦略: 企業内の複雑な業務手順やITシステムの操作方法を、教育コンテンツや標準マニュアルとして整備・視覚化する役割を創出します。
- 特性の活用: 知的障害の「手順への忠実さ」や「視覚的な情報処理能力」が活かされます。複雑な業務フローを、イラストや写真を多用した「誰にでもわかるマニュアル」へと変換する力は、新入社員のOJTや異動時の研修コストを大幅に削減します。
- 価値: マニュアルの質が向上することで、組織全体の教育効率と業務品質が安定します。
③ 補助機器を活用した専門職
身体機能に依存した業務から脱却し、知力集約型の専門業務を担うポジションを創出します。
- 戦略: 音声入力、視線入力などを前提に、データ分析や高度な事務処理を任せることで、「身体の制約」と「知的能力」を切り離します。
- 具体的な職務:
- データ分析サポート: Excel VBAやピボットテーブルを習得した社員に、AIが集めたデータの後処理を任せ、経営層向けレポートの作成や、データの傾向分析をサポート。
- 高度な文書作成: 音声入力ソフトを活用し、タイピング速度に左右されずに、思考スピードで会議の議事録や技術文書のドラフトを作成する。
- 価値: 補助機器を活用することで、身体障害を持つ社員が高度な知的な業務を安定して遂行でき、企業の意思決定に直接貢献できます。
業務再構築の戦略は、障害特性をAIが苦手とする「人間の価値」と結びつけることにあります。
5. 現場と人事の連携:「できない」を「できる」に変えるロードマップ

障害者雇用を持続可能な「競争力」に変えるには、人事部門の戦略と現場マネージャーの実行力が不可欠です。「業務が切り出せない」というネガティブな現状を打破するため、組織全体で以下の連携体制を構築する必要があります。
現場マネージャーへの指導徹底
障害を持つ社員の育成が成功するかどうかは、現場の直属の上司(マネージャー)の理解度に大きく左右されます。
- マネージャーを「育成責任者」と位置づけ、障害特性に関する知識と、指導法を学ぶ研修を必須化:
- 育成責任の明確化: 人事は、マネージャーを単なる「業務管理担当者」ではなく、障害を持つ社員の「育成責任者」として明確に位置づけます。これにより、育成を「片手間」ではなく、重要なマネジメントタスクとして認識させます。
- 必須研修: 発達障害、精神障害など、自社で多く採用する特性に関する基礎知識や、具体的な業務指示の「文書化」「分解」といった指導技術を学ぶ研修を必須とします。
- 評価制度への連動: 育成への取り組みや、配慮内容の実行度合いを、マネージャーの評価項目に組み入れることで、現場の本気度を引き上げます。
成功事例の他部署への展開
特定の部署で生まれた業務創出のノウハウを全社で共有し、組織全体の知恵として活用します。
- 特定の部署で成功した業務設計のノウハウをナレッジ化し、組織全体の定着ノウハウとする:
- ナレッジ化の推進: 例えば、「AI監査」の業務を創出した部署のマネージャーに、「どのように業務を切り出し、どのように社員を育成したか」というプロセスを文書化してもらい、全社で共有します。
- 横展開: 成功事例を社内報や社内研修で積極的に紹介し、「うちの部署でもできるのではないか」というポジティブなムードを醸成します。
- 効果: 他部署のマネージャーは、「切り出しが難しい」という主観的な思い込みから解放され、具体的な成功ノウハウを参考に、自部署の業務再構築に着手しやすくなります。
人事と現場が一体となり、「社員のポテンシャルを信じて投資する」という共通認識を持つことが、このロードマップの達成に不可欠です。
6. まとめ:経営者の意識改革が、雇用を「成長エンジン」に変える
本記事を通じて、DX時代における「業務が切り出せない」という壁は、「能力がない」というスキル不足ではなく、経営層や現場マネージャーの「単純作業しか任せられない」という誤った思い込みが原因であることを解説しました。
記事の要約:思い込みの打破と育成投資が不可欠
業務切り出しの壁は、スキル不足ではなく「思い込み」であり、育成投資と戦略的採用で克服できる。
- 壁の正体: DXで消滅したのは単純な「実行」業務であり、AIが苦手な「監査・判断・言語化」という高付加価値な領域が残されています。
- 戦略的転換: 採用の軸を「スキル」に置き、育成投資(Excel VBA、専門研修)を前提とすることで、このスキル不足は解消できます。
- 業務再構築: 発達障害の緻密な集中力をAI監査に、知的障害の忠実さをマニュアル標準化に活かすことで、障害者雇用を企業の品質と成長に貢献する「戦力」へと変革できます。
読者へのメッセージ:経営者、人事、現場は、「障害者雇用をコストで終わらせない」という共通認識を持ち、育成への投資を始めるよう促す
障害者雇用は、単なる法定雇用率の義務ではありません。それは、企業の「持続的な成長」と「競争優位性」を高めるための重要な経営戦略です。
- 行動の必要性: 経営者、人事、現場は、「障害者雇用をコストで終わらせない」という共通認識を持ち、能力のポテンシャルを信じて、育成への投資を始めることが、今、最も求められています。
- リターンの強調: 社内での安定雇用は、外部委託コストの削減と、組織全体の業務品質向上という、明確な経済的リターンをもたらします。
次のステップ:行動を起こし、戦力化を推進する
- 現場との初回連携: 人事部門は、配属先の現場マネージャーと、「業務の分解と再構築」について話し合う初回打ち合わせをすぐに設定しましょう。
- スキルアップ予算の確保: 社員のExcel VBAやデータ分析に対する研修予算を確保し、「成長への投資」を具体的にスタートさせましょう。
職務の再設計: AIの限界領域(最終チェック、マニュアル化)に焦点を当てた、「人間だからこそできる」高付加価値な職務の設計に着手しましょう。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







