- お役立ち情報
- 仕事探し・キャリア準備
- 健康と生活の両立
人事・現場必見!身体障害者の早期離職を防ぐ「通勤・環境整備」の具体的戦略

この記事の内容
1. はじめに|「身体よりも精神」へ:雇用現場で起きる逆転現象

問題提起:イメージと現実のギャップが離職を招く
課題:「雇用しやすい」イメージの裏側にある物理的バリア
障害者雇用を進める人事担当者の間で、「身体障害者は特性が分かりやすく、合理的配慮の内容が物理的なものに限られるため、精神障害者よりも雇用しやすい」というイメージが根強くあります。
しかし、現実の雇用現場では、このイメージとは裏腹に、身体障害者の採用において早期離職や、最終面接での採用見送りが増加している傾向があります。
その背景にあるのは、「物理的なバリア」と「通勤の負担」です。
- 通勤の壁: 特に都市部のラッシュ時の通勤は、車いすユーザーや肢体不自由のある方にとって、健常者の何倍もの体力と時間を消耗させます。
- 職場の固定されたバリア: トイレの幅、通路の狭さ、非常口の階段など、採用後に判明する物理的な問題が、入社への大きな壁となり、結果として定着率の低下を招いているのです。
記事の結論:定着には「物理的困難」への戦略的投資が不可欠
多くの企業が雇用率達成を目指す中で、「見えない障害」(精神障害)への特性理解と「物理的な困難」(身体障害)への戦略的投資のバランスを取ることが不可欠です。
本記事の結論は、身体障害者の長期定着を実現するためには、個別の配慮だけでなく、通勤経路の改善や職場環境のバリアフリー化といった「物理的困難」を解消するための、仕組みと投資が不可欠であるということです。この戦略的投資こそが、早期離職を防ぐ最も確実な道です。
この記事で得られること:定着率を高める配慮戦略
本稿を通じて、人事担当者や現場の管理職の皆様は、以下の重要な知識と具体的な戦略を得ることができます。
- 身体障害者が直面する物理的・体力的課題のリアル:通勤や職場内で、健常者には見えにくい疲労や困難。
- 採用を見送る企業の本音:「安全配慮義務」や「サポート人員配置」といった、企業側が抱える具体的な不安と戸惑い。
- 定着率を高めるための具体的戦略:通勤負担を軽減する制度(在宅、フレックス)と、安全・快適な環境を整えるための事前投資の進め方。
2. なぜ身体障害者の定着が「難しい」のか?2つの物理的バリア
身体障害者の採用は「しやすい」というイメージに反して定着が難しいのは、彼らが日々直面する「物理的バリア」が、業務開始前から社員の体力と集中力を削いでしまうからです。
課題1:通勤の物理的疲労と「隠れたコスト」
「見えない疲労」が生産性を著しく低下させる構造
通勤は、身体障害者にとって単なる移動手段ではなく、業務開始前の極めて高い身体的負荷となります。この負荷が、企業の生産性における「隠れたコスト」です。
- 疲労蓄積の構造: ラッシュ時の電車内でのバランス保持による緊張と疲労の蓄積、駅構内でのエレベーター待ちによる時間のロスと焦燥感、乗り換え時の長距離移動など、多くの体力を消耗します。
- 生産性への影響: この通勤による「見えない疲労」は、業務開始前に既に社員の体力を著しく消耗させ、結果として午前の集中力や生産性を著しく低下させます。これは、社員が持つ能力を十分に発揮できなくなることを意味します。
当事者の声:通勤による慢性的な疼痛と疲労
当事者の切実な声は、この「隠れたコスト」の深刻さを物語っています。
- 実例(当事者の声):
「ラッシュ時に杖を使って立ちっぱなしで通勤すると、会社に着く頃にはもう足腰に強い疼痛が出てしまい、午前中のデスクワークで集中力が残っていません。毎朝の通勤が、リハビリで回復した体力を削り取っていくのを感じます。」
このように、通勤そのものが業務遂行の障壁となり、慢性的な疲労や痛みの原因となっている現状を企業は理解し、解決策を講じる必要があります。
課題2:職場環境の「固定されたバリア」
採用を見送る決定打となる物理的制約
通勤を乗り越えても、職場の物理的バリアが、最終的に採用の見送りや早期離職の決定打となるケースが多発します。
- 固定されたバリア: 採用が内定した後になって判明する、通路の狭さ(車いすの旋回ができない)、階段しかない非常口(避難経路の未確保)、扉の開閉の困難さ、そして不十分なバリアフリートイレといった固定された物理的制約は、企業が安全配慮義務を履行できないと判断し、採用を見送る最大の原因となります。
トイレ・休憩室における「心理的バリア」の深刻さ
物理的なバリアが解消されていても、その「使われ方」によっては、心理的なバリアとなり定着を阻害します。
- 「使いにくさ」の構造: バリアフリートイレが倉庫として使われていたり、私物が置かれていたりする。また、車いすで利用できる休憩スペースが隅に追いやられていて利用しにくいといった状況は、当事者に「自分はこの職場で歓迎されていない」という心理的な孤立感を与えます。
- 定着率への影響: 物理的なバリアだけでなく、こうした心理的なバリアが、日々のストレスとなり、社員の企業へのエンゲージメントを低下させ、最終的に早期離職を招く構造となっています。
3. 企業が抱く「戸惑い」と「見送りの本音」の構造分析

身体障害者の採用において、企業が最終的に採用を見送ったり、現場が消極的になったりする背景には、コストと安全責任に関する具体的な不安が存在します。これは、当事者の能力とは無関係な、組織的な「戸惑い」の構造です。
人事が恐れる「サポート人員の配置」と人件費の不安
採用を検討する際、人事が最も具体的な懸念として抱くのが、サポート体制構築に伴う人件費と業務効率の低下です。
- 人件費と配置調整への不安: 身体障害者の入社に伴い、「誰が日常的なサポート役になるのか」「そのサポートに充てるための配置調整にどれだけのコストがかかるのか」という具体的な不安が生じます。特に、食事や排泄介助が必要な重度障害の場合、専門の介助者を配置するための予算は、企業にとって大きな負担となります。
- 現場の業務効率低下への懸念: 専門の介助者配置や、現場社員のサポート業務が、現場の業務効率を低下させるのではないかという懸念は根深く存在します。「一人の社員のサポートのために、他の社員の時間を奪う」という構図が、現場社員の不公平感につながることを人事側は恐れます。
現場の管理職が抱える「安全配慮義務」のプレッシャー
現場の管理職が抱える懸念は、コストよりも「責任」に集約されます。
- 安全配慮義務のプレッシャー: 身体的な事故や怪我を防ぐための「安全配慮義務」の責任が重すぎるというプレッシャーから、採用に消極的になる心理構造があります。管理職は、「転倒や怪我を防ぐための環境整備に不備があった場合、企業としての責任を問われるのではないか」というリスクを過度に恐れます。
- 緊急時の対応への不安: 特に地震や火災などの「緊急時の避難誘導」に関する責任を負うことへの不安は深刻です。エレベーターが停止した場合の車いすユーザーの避難ルートの確保や、誰が避難誘導を担うかといった、具体的なマニュアルの整備が不十分であると、管理職は採用に強いブレーキをかけます。
精神障害者の「雇用しやすさ」の真の理由
相対的に、精神障害者の雇用が進みやすい背景には、この「物理的なコストと責任」の差があります。
- 配慮の性質の違い: 精神障害者の特性への配慮は、主に「環境調整」(例:静かな席、業務量の調整、チャットでの指示)であり、物理的な改修コストが低く、即座に対応可能なケースが多いです。
- 責任とリスク: また、物理的な移動や安全配慮義務に関するリスクが身体障害者に比べて低いため、企業側の安全責任に関するプレッシャーも相対的に軽くなります。
このため、企業は物理的な投資や安全責任のリスクが低い精神障害者雇用に流れがちですが、雇用率達成と真のダイバーシティ実現のためには、身体障害者の「物理的困難」への戦略的投資が不可欠なのです。
4. 定着率を高めるための「通勤・環境整備」戦略
身体障害者の早期離職を防ぐには、物理的・体力的バリアを解消するための戦略的な「投資」と「仕組み化」が不可欠です。これは、特定の個人への負担軽減に留まらず、全社員の働きやすさを向上させる効果があります。
戦略1:通勤負担を解消する「時間と場所の合理的配慮」
通勤による「見えない疲労」は、業務の生産性を低下させる最大の要因です。これを解消するための、時間と場所に関する柔軟な制度導入が求められます。
- 在宅勤務の積極的活用:週3日在宅など、柔軟なテレワーク制度の導入は、身体障害者にとって最も理想的な配慮の一つです。通勤ストレスを大幅に軽減し、体力を温存することで、仕事への集中力を最大化できます。
- フレックスタイム制度の活用: ラッシュ時の混雑や、駅構内のエレベーター待ちといったストレスを回避するため、フレックスタイム制度による時差出勤を徹底します。これにより、朝の身体的・精神的な負担を減らし、業務開始時に万全の体調を整えることができます。
- 経済的サポートの検討: 通勤時間が短い職場近くへの居住を促すため、住宅手当の上乗せや引越支援を経済的サポートとして検討することは、長期的な定着に繋がる賢明な投資です。
戦略2:物理的バリアを解消する「事前投資と仕組み化」
職場環境の物理的なバリアは、採用を見送る決定的な要因になり得ます。入社前に改修を完了させる「事前投資」が成功の鍵です。
- 職場見学時の監査と事前改修: トライアル雇用や職場見学の段階で、必要な改修(手すり設置、スロープ設置、デスクの高さ調整など)を具体的に判断し、入社前に改修を完了させることの重要性を徹底します。これにより、入社直後から社員が最大限の能力を発揮できる環境が整います。
- 緊急時対応の仕組み化: 災害時の避難ルートや避難誘導の方法を、事前に明確にマニュアル化することが必須です。特定の社員(特に管理職)に避難誘導の責任を集中させない仕組みを構築し、全社員が役割を分担することで、現場の心理的負担を軽減します。
戦略3:設備を超えた「ヒューマンサポート」の仕組み化
物理的な設備投資だけでは対応できない日常的なサポートは、属人化を防ぎ、組織的に対応することが重要です。
- 介助者配置の検討: 排泄介助や移乗介助など、専門的なサポートが必要な重度障害者の場合、企業のコストで専門の介助者(ヘルパー)を配置することを検討します。これは、現場社員の負担をゼロにし、業務効率の低下を防ぐための投資です。
- チーム内での役割分担(バディ制度): 日常的なサポート(備品の運搬、書類整理の補助など)を特定の社員に集中させず、チーム全体で役割を分担し、負担を平準化する仕組み(バディ制度など)を導入します。これにより、サポートの提供が円滑になり、現場の不公平感を解消できます。
5. 身体障害者雇用を成功させる「採用前の戦略」

求める配慮の「明確化」とミスマッチの防止
- 応募段階での具体的なヒアリング:
- 社員に求める具体的な移動手段(車椅子利用の有無、介助の必要性など)
- 必要な休憩時間の長さや頻度
- 排泄管理にかかる時間や必要な環境
- これらの情報を明確にヒアリングするプロセスを確立します。
- ミスマッチの事前防止:
- 事前ヒアリングの結果に基づき、企業として提供可能な配慮(設備の改修、勤務時間の調整、業務内容の変更など)と、求職者が求める配慮との間にミスマッチがないかを慎重に確認し、入社前に双方の認識を一致させます。
採用後に活きる「身体障害者の強み」
- 困難への耐性と計画性:
- 日常生活や社会生活における困難を乗り越えてきた経験から培われた自己管理能力、目標達成に向けた計画性、そして問題解決能力を高く評価します。
- 集中力:
- 身体的負荷の少ない定型業務やデスクワークなど、集中できる環境下において発揮される高い集中力は、生産性の向上に貢献します。
6. まとめ|「仕組み」への投資が、誰も取り残さない雇用を創る
記事の要約:身体障害者の雇用が進まない根本原因
- 根本原因の再確認: 身体障害者の雇用が進まない真の原因は、障害そのものではなく、「物理的・体力的バリア」にあることを再確認しました。
- 戦略的な投資による解消: これらのバリアは、戦略的な設備投資や柔軟な制度設計といった「仕組み」への投資によって、十分に解消可能な問題です。
- 長期定着の第一歩: 特に、採用の門戸を広げ、長期的な定着を実現するための最重要課題は、「通勤の壁」を壊すことにあります。
読者へのメッセージ:未来への投資とダイバーシティの実現
- 優秀な人材の確保へ: 企業は、「通勤の壁」を壊す投資(リモートワーク環境の整備、送迎サービスの検討など)と、配慮を属人化させないサポート体制の仕組み化を行うことで、これまでアクセスできなかった多様な障害を持つ優秀な人材を確保できます。
持続可能な成長の鍵:物理的な仕組み(インフラ)への投資こそが、単なる形式的な達成ではなく、真のダイバーシティとインクルージョンを実現します。これは、企業の持続可能な成長と競争力を支える未来への投資となることを強調します。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







