2025/12/27
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人手不足を解消する「超短時間雇用」という選択肢|週3日、1日4時間から始める戦力化

この記事の内容

はじめに:「フルタイム至上主義」が採用難を招いている

「週5日、1日8時間フルで働ける人でなければ採用できない」。 多くの企業が抱えるこの固定観念が、実は自らの首を絞め、人手不足を加速させています。労働人口が減少する現代において、旧来のフルタイム枠に当てはまる人材だけを奪い合う戦略は、もはや限界を迎えています。


優秀だが「長くは働けない」層という未開拓の労働力

精神障害や発達障害、あるいは難病を抱える方の中には、高い事務処理能力や特定の専門スキルを持ちながらも、疲れやすさや通院、体調管理の都合上、「1日4時間、週3日が限界」という方が多く存在します。

これまでは「週20時間以上」という雇用の壁(制度上の算定基準)に阻まれ、労働市場からこぼれ落ちていたこうした優秀な人材が、今、企業の深刻な人手不足を埋める「未開拓の戦力」として大きな注目を集めています。

2024年4月から始まった「0.5人カウント」の衝撃

2024年4月の法改正は、この状況を劇的に変えました。 週10時間以上20時間未満で働く精神障害者、重度身体障害者、重度知的障害者が、法定雇用率において「0.5人」としてカウントできるようになったのです(特定短時間労働者)。

これにより、企業は「無理に長く働いてもらう」リスクを負う必要がなくなり、「本人の体調に合わせた短時間雇用」を維持しながら、法定義務を果たし、かつ実務的な人手不足を解消することが可能になりました。

本記事の結論:短時間を組み合わせる「モザイク型雇用」が現場を救う

一人の欠員が致命傷になる「フルタイム依存」から脱却し、短時間の労働力をパズルのように組み合わせる「モザイク型雇用」。これは、障害者雇用の枠を超え、育児・介護や副業など、多様な働き方を許容する「しなやかで強い組織」への第一歩です。

本稿では、短時間雇用を単なる「配慮」や「福祉」ではなく、現場を回すための攻めの「戦力化戦略」として活用する手法を詳しく解説します。

1.なぜ今「週20時間未満」なのか?制度活用のメリット

これまでの障害者雇用は、制度上の理由から「週20時間以上」という枠に縛られてきました。しかし、この枠組みが、働く意欲はあるものの長時間労働に不安を抱える層にとって、高い壁となっていたのも事実です。新制度の活用は、企業・労働者の双方にこれまでにない自由度をもたらします。


精神・発達障害のある方の「最初の一歩」に最適なボリューム

精神障害や発達障害のある方にとって、新しい環境で「週5日・フルタイム」で働き始めることは、極めて大きな心理的・身体的負荷がかかります。

  • ソフトランディング: 「週3日・1日4時間」といった短時間からスタートすることで、体調を崩すリスクを最小限に抑えながら、職場のルールや人間関係に少しずつ慣れていくことができます。
  • 成功体験の積み重ね: 無理のないペースで「仕事をやり遂げた」という実感が、本人の自信(自己効力感)に繋がり、長期的な定着へと結びつきます。

「週10時間以上」で雇用率に算定できるようになった背景

2024年4月に「特定短時間労働者(週10〜20時間)」が雇用率にカウントされるようになった背景には、障害者の「多様な働き方」を支えるという国の意向があります。

特に精神障害のある方は、体調の波がある中で「細く長く」働き続けることを希望するケースが多く、企業側も「いきなり20時間の責任を負わせるのは……」と躊躇する場面がありました。この新ルールによって、「本人の体調に合わせた無理のない時間設定」と「企業の雇用義務達成」が両立できるようになったのです。

社会保険加入義務の壁を逆手に取った、柔軟なシフト設計

週20時間未満の雇用には、実務上の大きなメリットがもう一つあります。それは「社会保険(厚生年金・健康保険)」の加入義務が発生しない範囲での契約がしやすい点です(※企業規模等の要件によります)。

  • コストの最適化: 会社負担分の社会保険料を抑えつつ、複数の人材を確保できます。
  • 手取り額の調整: 本人が「扶養の範囲内で働きたい」「年金の受給額に影響が出ない範囲で働きたい」といった要望を持っている場合、週10〜15時間という枠は非常にマッチングしやすく、採用時の強いフックになります。

2.「1人をフルタイム」より「3人を短時間」で雇う経営的利点

一人の「完璧なフルタイム人材」を探すことに固執するよりも、短時間労働者を複数組み合わせる方が、実は経営上のリスクに強く、生産性も安定するケースが多くあります。


リスク分散:1人の欠勤が業務停止に直結しない体制づくり

フルタイム雇用で一人の担当者に業務を任せきりにしていると、その一人が急病や家庭の事情で欠勤した際、その部署の業務が完全にストップしてしまいます。

  • ワークシェアリングの効果: 例えば週40時間の業務を、短時間雇用の3人で分担していれば、一人が休んでも残りの2人でカバーしたり、優先順位を調整したりすることが容易になります。
  • 属人化の解消: 複数人で業務を共有するためには、作業の標準化とマニュアル化が不可欠です。このプロセス自体が、特定の誰かにしかできない「ブラックボックス業務」をなくし、組織全体のレジリエンス(復元力)を高めることに繋がります。

集中力の最大化:単純作業や高負荷業務こそ「短時間」が向いている

人間の高い集中力は長くは続きません。特に、細かいデータ入力や検品、単調な仕分け作業などは、8時間続けるよりも、リフレッシュした状態で短時間取り組む方が、時間あたりの生産性も精度も高くなる傾向があります。

  • 「ゴールが見える」強み: 「2時間でこの分量を終わらせる」という明確な目標がある短時間勤務は、精神的な疲労が蓄積しにくく、ミスも抑えられます。
  • 高負荷業務の分散: 精神的にストレスのかかる業務を、複数の短時間労働者で分担することで、一人あたりの負担を軽減し、メンタルヘルス不調による離職を防ぐことができます。

採用母集団の拡大:フルタイムの10倍以上の応募が集まる理由

現在、ハローワークや求人媒体で「週40時間」の障害者枠求人を出すと、他社との激しい競合になります。しかし、条件を「週15時間・1日3時間〜」に変えるだけで、応募者数は劇的に増加します。

  • 潜在層へのアプローチ: 「能力はあるが、体力の不安からフルタイム求人を避けていた層」にとって、超短時間求人は非常に魅力的な選択肢です。
  • 選べる贅沢: 応募者が増えれば、その分、自社の業務に最適なスキルを持つ人材を選考できる確率が高まります。「とりあえず誰でもいいから雇う」のではなく、「短時間だが非常にスキルの高い人」を複数名確保することが可能になるのです。

3.超短時間雇用で切り出しやすい「3つの業務モデル」

「週10時間で何を頼めばいいのか?」と悩む必要はありません。業務を「時間軸」で分解してみると、既存社員が本来のコア業務を中断して行っている「付随業務」が、超短時間雇用に最適なピースとして浮かび上がってきます。


①「毎日2時間」のルーチン:開店準備、清掃、データ入力

毎日決まった時間に発生する、短くても欠かせない業務を切り出すモデルです。

  • 活用例: 始業前のデスク清掃や備品補充、前日に溜まったデータの入力、郵便物の仕分けなど。
  • メリット: 既存社員が「さて、仕事を始めよう」とする瞬間に、すでに周辺環境が整っている状態を作れます。既存社員のスタートダッシュを支援する「ブースター」のような役割です。

②「週2回の繁忙期」対応:発送業務、週明けの書類整理

特定の曜日や時間帯にだけ業務が集中する「山」を崩すためのモデルです。

  • 活用例: 週明け月曜日の大量の伝票整理、納品がある火・木曜日の検品・棚入れ、金曜日の発送作業など。
  • メリット: 繁忙期のイライラや残業を物理的に削減できます。週2日、1日5時間といった働き方は、体調に波がある方にとっても「この日だけ頑張ればいい」というリズムが作りやすく、非常にマッチしやすい形態です。

③「すきま時間」のサポート:スキャニング、備品管理、シュレッダー

「やらなければいけないが、つい後回しにしてしまう」という、溜まりがちな作業を一掃するモデルです。

  • 活用例: 過去書類のPDF化(スキャニング)、倉庫内の整理整頓、名刺データの入力、廃棄書類のシュレッダー処理など。
  • メリット: これらは急ぎではないものの、放置すると業務効率を確実に下げる「澱(よどみ)」です。週3回、午後の数時間だけこれらを専念して行うスタッフがいれば、オフィス全体の生産性は驚くほどクリーンに保たれます。

これらの業務に共通するのは、「マニュアル化が容易で、成果が目に見えやすい」ことです。短い時間で確実に役割を果たしてもらうことで、本人の達成感も高まり、職場にとって欠かせない存在としての実感が育まれます。

4.短時間雇用を成功させる「チーム運営」のコツ

超短時間雇用を導入する際、現場が最も懸念するのは「入れ替わり立ち替わり人が来ることで、指示出しや引き継ぎの工数が増えるのではないか」という点です。これを防ぐためには、個人の記憶に頼らない「仕組み」による運営が不可欠です。


誰が来ても仕事ができる「徹底したワークフローの可視化」

週に数時間しか出勤しないスタッフにとって、前回の記憶を呼び起こす作業は負担になります。また、教える側も毎回同じ説明をするのは非効率です。

  • 「迷わせない」マニュアル: 業務の手順を1から10まで書き出すだけでなく、「どこに何があるか」「困ったら誰に聞くか」までを1枚のシート(ナビゲーションマップ)にまとめます。
  • 写真と動画のフル活用: 文字だけのマニュアルではなく、PC画面のキャプチャや、実際の作業風景をスマホで撮った15秒動画をQRコードで貼り付けておきます。視覚的な情報は、久しぶりに出勤した際の「思い出し」を劇的に速めます。

引き継ぎコストをゼロにする「進捗管理ボード」の活用

複数のスタッフが同じ業務をリレー形式で進める場合、口頭の引き継ぎはミスと時間のロスを生みます。

  • 状態の可視化: ホワイトボードや共有のスプレッドシートに、「未着手」「作業中」「完了」のステータスを明記します。
  • 「どこまでやったか」の付箋: 例えば書類整理なら、「50ページまでチェック済み」というメモを現物に挟んでおくだけで、次に担当するスタッフは1秒で作業を再開できます。

既存社員の「コア業務」への専念を促すアナウンス術

短時間スタッフが配属される際、既存社員の中には「自分の仕事が奪われる」あるいは「面倒を見なければならない負担が増える」と警戒する人が出るかもしれません。

  • 導入の目的を「既存社員のメリット」に置く: 「障害者のために手伝ってほしい」ではなく、「皆さんが本来やるべき専門業務に集中できる時間を確保するために、この業務を切り出しました」と伝えます。
  • 感謝の仕組み化: 短時間スタッフが完了させた仕事に対し、既存社員が「これのおかげで助かった」というフィードバックを小さなサンクスカードやチャットで送る文化を作ります。これにより、短時間スタッフのモチベーションが高まるだけでなく、既存社員も「サポートを受ける恩恵」を実感しやすくなります。

5.ステップアップの設計:短時間からフルタイムへの道筋

超短時間雇用は、決して「一生そのまま」である必要はありません。企業にとっては「人材の適性を見極める期間」、本人にとっては「社会復帰に向けたリハビリテーション」として、将来の戦力拡大を見据えたステップアップの土台となります。


「まずは週10時間」という試用期間的な活用

いきなり週20時間以上の契約で雇用し、もし本人に合わなかった場合、企業にとっても本人にとっても「早期離職」という傷跡が残ります。

  • リスクの最小化: 最初は「週10時間」という最小単位でスタートすることで、企業側は「業務への適性」や「勤怠の安定性」をじっくり確認できます。
  • ミスマッチの防止: 現場の雰囲気になじめるか、指示の理解度はどうか。これらを低リスクな環境で確認できるため、実質的な「長期試用期間」としての機能を果たします。

本人の体調と自信に合わせて契約時間を変更する基準

ステップアップを成功させるには、「頑張れそうだから時間を増やす」といった曖昧な判断ではなく、明確な基準を設けることが重要です。

  • 3ヶ月程度の安定性: 「過去3ヶ月間、欠勤や遅刻がなく、設定した業務を完遂できていること」を基準にします。
  • 面談による意向確認: 本人が「もう少し働けそうだ」という自信を持てているか、主治医の判断はどうかを定期面談で確認します。
  • 段階的な引き上げ: 週10時間から一気に20時間へ増やすのではなく、まずは「15時間(週3日から週4日へ、あるいは1日4時間から5時間へ)」といった、スモールステップでの調整を検討してください。

働き方の多様性を認めることが、全社員のエンゲージメントを高める

短時間からフルタイムへ、あるいは体調に合わせて再び短時間へ。こうした柔軟な働き方の「前例」が社内にできることは、障害者雇用以外の面でも大きなメリットを生みます。

  • 「お互い様」の風土: 「今は短時間だけど、いつかフルタイムで貢献したい」という障害のある社員の姿勢は、介護や育児でフルタイムが難しい他の社員にとっても、「自分もこの会社なら長く働ける」という安心感に繋がります。
  • 心理的安全性の向上: 事情があるときに働き方を調整できる仕組みがあることは、組織全体のエンゲージメント(貢献意欲)を底上げし、将来的な離職防止の切り札となります。

6.まとめ|「短時間」は妥協ではなく、新しい時代の「戦略」である

「週20時間未満」の雇用は、かつては「戦力にならない」「管理が面倒だ」と敬遠されがちな選択肢でした。しかし、2024年の法改正と深刻な労働力不足を背景に、今やこの超短時間雇用こそが、企業の持続可能性を支える強力な武器へと進化しています。


総括:細分化された労働力が、組織の柔軟性を生む

「一人のフルタイム」にすべての業務を背負わせる構造は、その人が欠けた瞬間に崩壊する脆弱さを孕んでいます。一方、業務を細分化し、複数の短時間スタッフでシェアする体制は、変化に強い「しなやかな組織」を作ります。

  • 障害者雇用の成功: 本人の特性に合わせた「短時間」から始めることで、無理のない定着と確実な戦力化が叶います。
  • 現場の解放: 既存社員が「本当にやるべき仕事」に集中できる環境が整い、全社的な生産性が向上します。
  • リスクの分散: 特定の誰かに依存しないワークフローが構築され、組織としての安定性が増します。

「短時間だから仕方なく雇う」のではありません。「短時間だからこそ、最高のパフォーマンスを発揮してもらえる業務がある」という視点への転換が、これからの経営には不可欠です。

最後に:貴社の業務を「10時間単位」で切り出すワークショップを提案します

「理屈はわかるが、自分の部署で何を切り出せばいいかわからない」 「マニュアル化を検討する時間さえ、今の現場にはない」

そんな不安をお持ちの経営者・人事担当者様のために、私たちは現場の業務を可視化し、「週10時間単位」の仕事へとパズルを解くように分解するワークショップを提供しています。

既存社員の「忙しい!」の正体を突き止め、それを障害のある方の「得意!」へと繋げる。この幸せなマッチングが、貴社の人手不足を解消する決定打となるはずです。新しい時代の「戦略的短時間雇用」を、私たちと一緒に設計してみませんか。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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