2025/12/27
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合理的配慮は「特別扱い」ではない|全社員の不公平感を解消するための対話の進め方

この記事の内容

はじめに:現場から上がる「ずるい」という声の正体

「あの人だけ残業をしなくていいのはずるい」「指導に時間が取られて、自分の仕事が進まない」。 障害者雇用を開始した際、あるいは制度を拡充した際、現場の社員からこうした不満が漏れ聞こえてくることがあります。これらは一見、個人のわがままのように見えますが、実は組織の設計図に対する「叫び」でもあります。放置すれば、既存社員のモチベーション低下や、障害のある社員の孤立を招く火種となります。


不公平感は「情報の不足」と「余裕のなさ」から生まれる

既存社員が抱く「不公平感」の正体は、相手に対する悪意ではありません。その多くは、次の2つの要因から生まれます。

  1. 情報の不足: 「なぜその配慮が必要なのか」「どこまでが配慮の範囲なのか」という根拠が共有されていないため、単なる「サボり」や「優遇」に見えてしまう。
  2. 余裕のなさ: 「配慮によって生じたシワ寄せ(業務負担)を、誰がどうカバーするのか」という解決策が提示されないまま、現場の善意に丸投げされている。

不満を抑え込むのではなく、これら2つの欠乏を解消することが、納得感を作る第一歩です。

「平等(イクオリティ)」と「公平(エクイティ)」の違いを理解する

不公平感を解消するために、まずチームで共有すべきなのが「平等」と「公平」の概念の違いです。

  • 平等(Equality): 全員に同じ高さの踏み台を与えること。一見フェアですが、もともとの身長(障害や特性)が異なる場合、低い人は景色が見えないままです。
  • 公平(Equity): それぞれが必要な高さの踏み台を使うこと。結果として「全員が景色を見られる(仕事の成果を出せる)」状態を指します。

本記事の結論:配慮の目的を「成果の最大化」に置けば納得感は作れる

合理的配慮は、単なる「優しさ」や「義務」による免除ではありません。それは、本人が持てる能力を100%発揮し、チームの利益に貢献してもらうための「仕事の道具を整える行為」です。

配慮の目的を「福祉」から「成果の最大化」へと置き換えることで、周囲の社員も「それなら納得だ」と思えるロジックが成立します。本稿では、現場での軋轢を解消し、誰もが納得して働ける職場をデザインするための具体的な対話術について解説します。

1.「合理的配慮」の誤解を解く:それは特権ではない

現場で「ずるい」という言葉が出る背景には、「合理的配慮=障害があるから許される特別ルール」という誤解があります。しかし、この概念の本質は、決して特権を与えることではありません。


障害は「個人」にあるのではなく「環境とのギャップ」にある

まず、組織として共有すべきは「社会モデル」という考え方です。 これまでは「足が不自由なのは個人の問題」と捉えられてきました。しかし現在では、「段差があるから、車椅子の人が通れない。つまり、段差という社会の側に障害がある」と考えます。

  • 職場における障害: 「集中力が続かない」のは個人の性格ではなく、「あまりにも騒がしいオフィス環境」と本人の特性の間にギャップ(障害)が生じている状態を指します。

合理的配慮とは、スタートラインを揃えるための「調整」である

合理的配慮とは、この「環境とのギャップ」を取り除くための調整です。 眼鏡をかけていない人が、視力の低い人に向かって「眼鏡をかけるなんてずるい、裸眼で勝負しろ」とは言いません。なぜなら、眼鏡は「スタートラインに立つための道具」だと誰もが知っているからです。

  • 本質: 合理的配慮もこれと同じです。「静かな別室での作業」や「指示書のテキスト化」は、本人が能力を発揮できない原因(環境の段差)を取り除き、他の社員と同じ土俵に立ってもらうためのインフラ整備なのです。

2024年4月からの義務化:法律が求める「対話」の本質

2024年4月より、民間企業においても「合理的配慮の提供」が義務化されました。ここで勘違いしてはならないのは、法律が「本人の言い分をすべて聞け」と言っているわけではないという点です。

  • 「建設的対話」の義務: 法律の本質は、企業と障害のある社員が、お互いに歩み寄って解決策を探る「対話」のプロセスにあります。
  • 過重な負担の検討: 企業側にとってコストや体制面で「過重な負担」となる場合は、別の代替え案を提示することも認められています。

つまり、合理的配慮とは「一方的な要求」ではなく、「どうすればこの職場で戦力として活躍できるか」という共通のゴールに向けた契約の調整なのです。

2.既存社員の「不満」を無視してはいけない理由

合理的配慮の重要性を説くだけでは、現場の軋轢は解消しません。むしろ、既存社員のネガティブな反応を「理解が足りない」「差別的だ」と切り捨ててしまうことは、組織運営において最も危険な行為です。


「配慮する側」の負担が可視化されていないリスク

障害のある社員への配慮(指示の工夫、ダブルチェック、業務の代替など)を実際に行うのは、現場の同僚や直属の上司です。これらの「配慮に伴う業務」は、往々にして既存の業務に上乗せされ、数値化も評価もされません。

  • 「隠れたコスト」の蓄積: 周囲が「善意」で動いているうちはいいですが、その負担が限界を超えたとき、不満は障害のある社員個人へと向かってしまいます。
  • 解決策: 配慮にかかる工数や、それによって発生する他メンバーの残業を、経営・管理側が「目に見えるコスト」として認識し、フォローする姿勢を見せることが不可欠です。

感情的な反発を「教育不足」の一言で片付けない

「あの人だけいいよね」という言葉の裏には、その社員が日々感じているプレッシャーや疲弊が隠れています。

  • 正論は時に牙を剥く: 会社が「これは法律で決まったことだから」「ダイバーシティが大事だから」という正論を押し付けるほど、余裕のない現場社員は「自分たちの苦労は無視されている」と疎外感を強めます。
  • 感情の受け止め: まずは現場の「大変さ」を否定せずに聞くこと。その上で、「不公平」を解消するための具体的なリソース配分を話し合う場が必要です。

不満の裏にある「自分も助けてほしい」というサインを読み取る

「不公平だ」という声は、実は既存社員からの**「SOS」**であるケースが非常に多いのです。

  • 「自分はこんなに我慢しているのに」: 自分が体調不良でも休まず、無理をして働いている社員にとって、適切に配慮を受ける障害のある社員の姿は、自分の「我慢」を否定されているように感じられます。
  • 潜在的なニーズの顕在化: 障害者雇用をきっかけに出た不満は、実は「子育て中で本当は早く帰りたい」「自分もこの業務フローは非効率だと思っていた」といった、全社員が抱える潜在的な課題を炙り出しているに過ぎません。

不満を「個人の資質の問題」に矮小化せず、「組織の歪み(ひずみ)」として捉え直す。この視点の転換が、不公平感を解消し、全員が救われる職場作りの出発点となります。

3.不公平感を解消する「説明」と「対話」の3ステップ

「不公平だ」という感情を「納得」に変えるには、抽象的な理念ではなく、具体的な事実と仕組みを提示することが重要です。現場の納得感を生むための対話は、以下の3つのステップで進めましょう。


ステップ1:業務の切り出しと役割分担を数値で示す

不満の多くは「あの人は楽をしている」という誤解から生まれます。これを防ぐには、各メンバーの役割を可視化し、チーム全体の総量がどう分配されているかを明確にします。

  • 貢献の可視化: 「Aさんは電話応対ができない代わりに、月間のデータ入力件数を既存社員の1.2倍担当している」といった具合に、「配慮と引き換えに、別の部分でチームに貢献している」事実を数値やタスク量で示します。
  • 責任の範囲: 全員が同じことをするのではなく、「この業務はAさんの責任、この業務はBさんの責任」と境界線を引くことで、無用な比較を防ぎます。

ステップ2:配慮の内容を「公開」できる範囲で共有する

本人のプライバシー(具体的な病名など)は守りつつも、「どのような配慮を行っているか(環境調整のルール)」については、チーム全体にオープンにすることをお勧めします。

  • ブラックボックス化を避ける: 「なぜかわからないけど許可されている特例」が最も不満を呼びます。「Aさんは視覚情報の処理に特性があるため、指示はすべてテキストで行うルールです。これは業務の正確性を期すためです」と、「目的」と共にルール化します。
  • チームの協力事項の明確化: 周囲が「何をすればいいか、何をしてはいけないか」を具体的に知ることで、過剰な気遣いによる疲弊も防ぐことができます。

ステップ3:全社員が「自分も配慮を受けられる」仕組みを作る

不公平感を解消する最大の鍵は、「合理的配慮を、障害者だけのものにしない」ことです。

  • ユニバーサルな配慮: 障害のある社員のために導入した「指示のテキスト化」や「柔軟な休憩」を、希望すれば他の社員も利用できるように制度化します。「腰痛があるからこの椅子を使いたい」「家庭の事情でこの時間は中抜けしたい」といった個別のニーズを拾い上げます。
  • 「私にもメリットがある」状態: 「Aさんへの配慮のおかげで、マニュアルが整備されて自分も仕事が楽になった」と感じられる実利を作ることが、最強の納得感を生みます。

「配慮」を「特定の人へのサービス」から「チーム全体のパフォーマンス最適化のためのツール」へと昇華させることで、現場の軋轢は「より良い働き方の追求」へと形を変えていきます。

4.「ずるい」を「お互い様」に変えるマネジメントの工夫

「制度」を整えるだけでは、人の感情は動きません。日常のコミュニケーションの中に、いかに「不公平感」を「相互扶助」へと変換する仕掛けを組み込むかが、マネージャーの腕の見せ所です。


休憩時間や通院への理解をどう広めるか?

精神障害のある社員が、疲れやすさから1時間に一度の小休憩を取ったり、定期的な通院のために早退したりする姿は、多忙な社員の目に「自分たちより楽をしている」と映りかねません。

  • 「薬」や「メンテナンス」としての説明: 休憩や通院は、サボりではなく、業務品質を維持するための「必要なメンテナンス」であることを伝えます。「彼にとっての休憩は、集中力をリセットしてミスを防ぐための『業務上の判断』である」というロジックを持たせます。
  • アウトプットへのフォーカス: 「何時間デスクに座っていたか」ではなく、「決められた時間内にどれだけのタスクを完了させたか」に評価の軸を移すアナウンスを徹底します。

障害者雇用による「既存社員のメリット」を具体的に還元する

「障害者雇用のために、皆が少しずつ我慢しよう」というメッセージは、長続きしません。既存社員が「障害者雇用のおかげで、自分たちの働き方も改善された」と実感できるリターンが必要です。

  • 「雑務」からの解放: 既存社員が「忙しくてやりたくないが、やらなければならない」と感じていた付随業務(ファイリング、清掃、単純なデータチェックなど)を障害者雇用枠へ完全に移行します。
  • 余力の還元: 切り出しによって浮いた時間を、既存社員の「研修時間」や「定時退社」に直結させます。「〇〇さんが事務を巻き取ってくれたおかげで、今月からチーム全員の残業が月5時間減りました」と、メリットを具体的に言語化してフィードバックします。

互いの強みと弱みを可視化する「マイ・マニュアル」の導入

「障害者だけが配慮を受ける側」という構図を壊すために、全員で「自分自身の取扱説明書(マイ・マニュアル)」を作成・共有することをお勧めします。

  • 全員が「配慮」の当事者になる: 「朝は集中したいので話しかけないでほしい」「文章より図解のほうが理解が早い」など、全社員が自分の特性と希望する配慮を書き出します。
  • お互い様の土壌作り: 全員の苦手が可視化されることで、「障害があるから」ではなく「Aさんという人間はこうだから」という個別の関わり方が標準になり、不自然な「特別扱い感」が消えていきます。

5.事例:対話によって「納得感」を作った企業の成功談

理論や理屈だけでは、現場の心の壁はなかなか崩れません。ここでは、実際に「不公平感」の危機を乗り越え、組織としての絆を深めた企業の具体的なエピソードを紹介します。


「一部の部署に負担が集中」という不満をどう乗り越えたか

ある中堅メーカーでは、事務センターに3名の障害のある社員を配属しました。しかし数ヶ月後、教育を担う一部のベテラン社員から「自分の業務が全く進まない」「なぜ私たちの部署ばかりが苦労するのか」という強い不満が噴出しました。

  • 解決の鍵:負担の「分散」と「評価」: 経営層は、この不満を「個人のわがまま」とせず、すぐに体制を見直しました。まず、教育担当者の目標設定から既存業務のノルマを20%削減。さらに、事務センターだけで抱えていた「配慮」のノウハウを他部署へも共有し、全社的な「業務マニュアル化プロジェクト」として再定義しました。
  • 結果: 「自分たちだけが損をしている」という感覚が、「会社全体の働き方改革を私たちがリードしている」という誇りに変わり、現場の空気は一変しました。

現場リーダーが発した「一言」が空気を目劇的に変えた瞬間

あるIT企業では、精神障害のある社員がパニックを起こし、業務が一時中断してしまった際、周囲に「またか……」という冷ややかな空気が流れました。その時、現場のリーダーがメンバーを集めて放った言葉が、組織のターニングポイントとなりました。

「彼は今、目に見えない障害と必死に戦って、この場に立っている。僕らが提供しているのは『特別扱い』じゃない。彼が戦うための『武器』を一緒に整えているんだ。そして、いつか僕らが同じように動けなくなった時、助けてくれるのはこういう仕組みがある組織だと思わないか?」

  • 共感の醸成: この言葉により、メンバーは「配慮」を「他人事の負担」ではなく「自分たちの未来への投資」として捉え直しました。
  • 変化: その後、そのチームでは障害の有無に関わらず「今、ちょっとキャパオーバーです」「サポートに入れます」という声掛けが自然に飛び交うようになり、結果としてチーム全体の納期遵守率が向上するという副次的な効果まで現れました。

6.まとめ|誰もが「自分に合った道具」を使える職場へ

合理的配慮を巡る「不公平感」の問題は、裏を返せば、これまでの日本の職場がいかに「個別の事情」を押し殺し、均一な労働を強いてきたかの裏返しでもあります。障害者雇用は、その窮屈な構造をアップデートするための貴重なチャンスです。


総括:公平性の基準を「時間」から「貢献」へとシフトする

「みんなと同じ時間、同じ場所にいて、同じように苦労する」ことが公平だという時代は終わりました。これからの組織が目指すべきは、「それぞれが最適な手段(配慮)を使い、チームの成果に最大限貢献する」という真の公平性です。

  • 「道具」としての配慮: 眼鏡や補聴器がそうであるように、チャットでの指示や短時間勤務も、成果を出すための「道具」に過ぎません。
  • 組織の成熟度: 障害者雇用を通じて培われた「対話の文化」は、介護や育児、自身の体調不良など、誰もが人生のどこかで直面する「制約」を受け入れる力となります。

「あの人だけずるい」という言葉が、「あの人はあの道具を使って、これだけの貢献をしている。自分にはどんな道具が必要だろう?」という建設的な問いに変わったとき、貴社の組織は一段上のステージへと進みます。

最後に:現場の軋轢を解消する「合理的配慮・合意形成サポート」のご案内

「不公平感が出ている現場に、どう声をかければいいか分からない」 「合理的配慮の範囲をどこまで認めるべきか、社内で合意が取れない」

こうした課題に対して、私たちは第三者の立場から、現場の「本音」を引き出し、双方が納得できる「合意形成コンサルティング」を提供しています。

制度を作るだけでなく、現場の「心」を繋ぎ合わせるための対話のお手伝いをいたします。合理的配慮を、組織を分断する火種ではなく、絆を深めるための「共通言語」に変えていきませんか。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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