2025/08/18
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家族が知っておくべき薬物依存症の対応法|支援機関・共倒れを防ぐポイント

はじめに

薬物依存症は、本人だけでなく家族や支援者にも大きな負担を与える病気です。
「どうしてやめられないの?」「また裏切られた」——そんな思いが重なり、家族自身が疲弊し、孤立してしまうケースは少なくありません。

依存症は長期的に回復を目指す病気であり、その過程で家族のサポートは不可欠です。ですが、支える側が共倒れしてしまうと、本人も家族も回復から遠ざかってしまうのです。

本記事では、家族や支援者が正しい知識を持ち、無理をせずに本人を支えるためのポイントをわかりやすく解説します。


薬物依存症の基礎知識

依存症と「意志の弱さ」との違い

「意志が弱いからやめられない」と考える人は多いですが、これは大きな誤解です。
薬物依存症は脳の仕組みが変化してしまう病気であり、本人の努力や根性だけではコントロールが極めて困難になります。

  • 健康な人の場合
    仕事や学校でストレスを感じても、睡眠や運動、友人との会話で気分を切り替えられる。
  • 依存症の人の場合
    脳が「薬物=唯一の解決策」と思い込んでしまい、どんな状況でも薬物に頼る回路が強化されてしまう。

わかりやすい例え

スマホ通知やゲームに強く引き込まれて「少しだけ」と思っても、気づけば何時間も続けてしまう経験はないでしょうか。
薬物依存はそれと似ていますが、違うのは脳の快感システムそのものが書き換えられてしまう点です。
「使わないと落ち着かない」「頭から離れない」という状態になり、本人の意思では歯止めが効かなくなります。

本人の苦しみ

多くの当事者は「本当はやめたいのにやめられない」という矛盾に苦しんでいます。
そこに家族が「怠けている」「意思が弱い」と責める言葉を投げかけると、本人は罪悪感と孤立感を深め、ますます再使用のリスクが高まります。


なぜ「やめたいのにやめられない」のか?

① 脳の報酬系が上書きされる

薬物を使うと脳内でドーパミン(快楽物質)が大量に分泌され、「強い快感の記憶」が残ります。
本来なら、運動・食事・達成感などでもドーパミンが出ますが、薬物による快感はその数倍以上。

➡ その結果、脳が「普通の方法では満足できない」「薬物が最短ルート」と学習してしまい、やめたいと思っても自然な楽しみでは満足できなくなります。


② 快感の追求から「苦痛の回避」へ

初期の使用目的は「快感を得るため」ですが、進行すると次のように変化します。

  • 初期:強い快楽 → もう一度味わいたい
  • 慢性期:快感は薄れる → 使わないと不安・離脱症状に苦しむ
  • 結果:「使いたいから」ではなく「苦しくないために」使う

➡ つまり本人も「やめたい」とは思っているのに、薬を断つと身体的・精神的な苦痛があまりに強く、再使用せざるを得ない状況に追い込まれます。


③ 自制心をつかさどる前頭前野の機能低下

薬物を繰り返し使うと、前頭前野(判断力や自制心を担う脳領域)の働きが弱まります。

  • 「やめなければ」と頭では理解している
  • でも衝動をブレーキする力が弱くなり、結果的に使ってしまう

➡ まるで「ブレーキが効かない車」のような状態です。


④ 矛盾した感情が生まれる理由

  • 理性(前頭前野):「やめたい、健康になりたい、家族に迷惑をかけたくない」
  • 欲求(報酬系・扁桃体):「でも薬が欲しい、使わないと苦しい」

この2つが同時に存在して葛藤するため、「やめたいのにやめられない」という矛盾した感情が生まれるのです。


⑤ 身近な例えで理解すると

  • ダイエット中に「甘いものは控えよう」と思っても、ケーキを見ると食べたくなる。
  • タバコをやめたいと思っても、ストレスがかかると吸いたくなる。

薬物依存症では、これがはるかに強烈なレベルで起きるとイメージすると理解しやすいでしょう。


家族へのメッセージ

この仕組みを知ると、家族も「なぜあんなに苦しそうなのにやめられないのか」が理解できます。
本人を責めるのではなく、「脳の病気による悪循環」ととらえることで、支援のスタンスが変わります。

家族が直面する課題

嘘・隠し事・借金

依存症が進むと、本人は薬物使用を隠すために嘘や言い訳を繰り返します。

  • 「もうやめた」と言いながら続けてしまう
  • 金銭的に困窮し、借金や金品の持ち出しに発展するケースも

これは「悪意」ではなく、脳が薬物を最優先に求めてしまう結果です。家族は裏切られたように感じますが、依存症の特徴と理解することが大切です。

暴言や暴力

離脱症状や薬物の影響で、感情のコントロールが難しくなり、家族に対して怒鳴る・暴れるといった行動が起こることもあります。

  • 「お金をくれないなら出ていく!」
  • 家族への暴言・物に当たるなど

危険がある場合は無理に対応せず、警察や専門機関に相談することが必要です。

共依存のリスク

家族が「助けなければ」と思うあまり、本人の問題を代わりに解決し続けてしまうことがあります。

  • 借金を肩代わりする
  • 会社や友人に隠してフォローする
    → 一見支えになっているようで、結果的に本人が「現実と向き合う機会」を失い、依存を長引かせるリスクとなります。

本人は現実に向き合えるのか?

① すぐには難しいのが普通

薬物依存症は脳の機能に変化が起きている病気です。
「もうやめなければ」と頭では理解していても、衝動や渇望が強く、自分の力だけで現実に立ち向かうのは極めて困難です。
➡ そのため、最初から「本人が一人で現実に立ち向かう」のを期待すると失望しやすくなります。


② 向き合える条件がそろえば可能になる

ただし、適切な環境・支援があれば、本人は徐々に現実と向き合える力を取り戻していけます。

  • 医療機関での治療(解毒+心理社会的支援)
  • 自助グループでの体験共有(「自分だけではない」と実感)
  • 家族が「責めない・隠さない」態度をとることで、安心して相談できる環境

➡ 「本人+家族+専門機関」の三角形で支えることが、向き合う力を育てます。


③ 向き合うプロセスは段階的

現実に直面するのは一気にできることではなく、段階的な学びです。

  • 初期:借金やトラブルを家族が肩代わりしてしまう
  • 中期:支援者と一緒に「困りごとを本人が説明する練習」
  • 後期:本人が「自分で責任を取る体験」を少しずつ積み重ねる

➡ 例:借金をすべて肩代わりするのではなく「返済計画を一緒に作り、最初の一部は本人が支払う」など、現実と向き合う小さなステップを作ることが有効です。


④ 家族の役割は「現実に直面する機会を奪わないこと」

本人がすぐに全ての問題に向き合えるわけではありません。
だからこそ家族の役割は、困難から完全に守ることではなく、本人が安全に現実と向き合える環境をつくることです。


家族ができる適切な対応

責めずに「病気」として扱う

「どうしてまた?」「意志が弱い」と責めても改善にはつながりません。
代わりに「依存症は病気だから治療が必要」という視点を持ち、冷静に対応することが重要です。

  • NG例:「しっかりしなさい!」
  • OK例:「困っているなら、一緒に治療を考えよう」

専門機関に早めにつなげる

  • 精神科・依存症外来・地域の保健センターなどを早期に活用
  • 家族だけで解決しようとせず、専門家にバトンを渡すことが、本人にも家族にも安心につながります

家族会・相談窓口の活用

  • 全国各地にある「家族会」や「ダルクファミリーグループ」などは、同じ立場の人と悩みを共有できる貴重な場
  • 匿名で利用できる相談窓口(自治体・NPO)もあるため、まずは「外に話す一歩」を踏み出すことが大切です

家族自身のセルフケア

一人で抱え込まない

薬物依存症は「家族の問題」ではなく、社会全体で支えるべき病気です。
しかし現実には、家族が「自分たちがなんとかしなければ」と思い込んでしまい、結果的に孤立するケースが少なくありません。

  • 孤立のリスク:家族が一人で背負い続けると、不眠や食欲不振、うつ症状など二次的な不調が生じやすい。
  • 支援の輪に入る意義:家族会・相談窓口・カウンセリングを活用することで「自分だけではない」と安心でき、長期的に支え続ける力になります。

つまり、「家族も支援を受けてよい」という認識が重要です。


ストレス解消と休息

本人を支えるためには、まず家族自身が元気でいることが欠かせません。

日常でできるセルフケア例

  • 軽い運動:散歩やストレッチは自律神経を整え、気持ちをリフレッシュさせる。
  • 趣味の時間:音楽・読書・園芸など「自分が没頭できること」を取り入れる。
  • 休養の確保:無理に「見張る」必要はなく、安心できる仕組み(医療・支援機関)を利用しながら休むことも回復につながる。

心理的セルフケア

  • カウンセリング:自分の気持ちを言葉にすることで、罪悪感や苛立ちを整理できる。
  • 日記やメモ:感情を可視化することで、自分の変化やストレスパターンに気づける。

なぜ「家族の元気」が大事なのか

家族が疲弊していると、

  • 小さなトラブルに過敏に反応してしまう
  • 本人に対して責め言葉や過干渉が増える
  • 支援機関につながる余力がなくなる

→ 結果的に本人の回復を遠ざけることになります。

反対に、家族が元気でいると、

  • 落ち着いて対応できる
  • 必要な支援先につなげやすくなる
  • 本人も「安心できる環境」で治療に向き合いやすくなる

つまり、家族自身のセルフケアは「本人の回復の基盤」でもあるのです。

サポートグループの利用

  • 同じ経験を持つ家族同士の交流は「自分だけではない」という安心感をもたらす
  • 長期的な支え合いの中で、具体的な対応策も学ぶことができます

まとめ

薬物依存症は、本人だけでなく家族にも大きな影響を与える病気です。

  • 嘘や暴言、借金といった課題に直面しても、「病気の症状」と理解する
  • 責めずに、専門機関や支援団体とつながりながら対応する
  • 家族自身も無理をせず、セルフケアや支援ネットワークを活用する

家族が健やかに支えられる環境を整えることこそが、本人の回復への最短ルートにつながります。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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