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愛知の「ものづくり」と「農福連携」の融合|工場敷地内の緑化管理やカフェ運営……製造業の枠を超えた新しい職域事例

この記事の内容
はじめに:製造現場の「外」に眠る、価値ある仕事

「うちは精密機械のラインだから、障害のある方にお願いできる作業がないんだ」。 愛知県内の製造業の経営者様や工場長様から、よく伺うお悩みです。確かに、自動化が進み、スピードと正確性が極限まで求められる現代の製造ラインは、多くの人にとってハードルの高い場所になっています。
しかし、視点を少し「ラインの外」へ移してみるとどうでしょうか。工場の敷地には、製造以外にも維持すべき機能が数多く存在しています。
ライン作業だけが障害者雇用ではない
工場の敷地には、広大な緑地があり、社員が食事をする食堂があり、休憩するスペースがあります。これら「製造以外の機能」を維持するために、現在は多額のコストをかけて外部委託(外注)しているはずです。
この「維持管理」や「サービス」という領域こそが、障害者雇用の宝庫です。製造ラインに人を無理に当てはめるのではなく、ラインを支える「環境」や「福利厚生」の担い手として雇用を創出する。これが、無理のない、かつ持続可能な障害者雇用のあり方です。
「農福連携」を工場敷地内に持ち込むという発想
今、全国的に注目されている「農福連携(農業×福祉の連携)」を、工場の敷地内で実践する動きが広がっています。これは単なる「草取り」の代行ではありません。
工場内の遊休地や法面(のりめん)を活用して野菜を育て、花を植え、工場の景観を整える。さらにはその成果を社員に還元する。「無機質な工場」の中に、生命を育む「農」の視点を取り入れることで、職場の空気感そのものを変えていく試みです。
本記事の結論:工場の余白を「福利厚生の拠点」に変え、新しい雇用を創る
本記事では、製造ラインの外に目を向け、工場の「余白」を活かして、社員満足度(ES)と障害者雇用を同時に高める新しいモデルを提案します。
愛知の製造業が培ってきた「段取り」や「品質管理」のノウハウを、農業や社内サービス業に転用することで、社員が健康になり、地域からも愛される、次世代型の「ものづくり拠点」の姿が見えてきます。
1.愛知の製造業にこそ「農福連携」が向いている理由
愛知県内の工業団地を車で走れば、手入れの行き届いた植栽や、広大な緑地帯を持つ工場が多く目に入ります。製造業において、これら敷地の維持管理は法的にも義務付けられていますが、実はこの「土地」こそが、障害者雇用における最大の武器になります。
広大な工場敷地を活用した「社内緑化・菜園管理」
多くの工場では、敷地内の除草や植木の剪定を外部の造園業者に委託しています。この業務を障害者チームによる「内製化」へと切り替えるのが第一歩です。
- 年間を通じた仕事づくり: 春夏の除草、秋の落ち葉拾い、冬の剪定準備と、屋外作業には明確な季節サイクルがあります。
- 「社内農園」の開設: 空いているスペースを畑に変え、季節の野菜を育てる「農福連携」を導入します。土に触れる作業は、精神障害のある方の情緒安定(農作業療法的な効果)にも繋がりやすく、非常に相性が良いのが特徴です。
収穫した野菜を社員食堂へ:地産地消ならぬ「社産社消」の実現
収穫した野菜は、ぜひ自社の社員食堂で活用してください。これこそが、地産地消ならぬ「社産社消(しゃさん・しゃしょう)」という新しい福利厚生の形です。
「今日のお味噌汁のナスは、うちの農園チームが育てたものです」。 そんな一言が添えられるだけで、社員の食卓は豊かになります。自分が作ったものが仲間に喜ばれるという実感は、障害者社員にとって「この会社の一員である」という強い帰属意識とやりがいを生みます。また、食堂側にとっても、仕入れコストの削減と新鮮な食材の確保という実利に繋がります。
殺風景な工場を「緑あふれる職場」へ変えるブランディング効果
鉄とコンクリートに囲まれた工場は、どうしても殺風景になりがちです。しかし、農福連携チームが日々花を植え、手入れをすることで、工場は「地域に開かれた公園」のような美しい景観へと生まれ変わります。
この変化は、外部からの評価も劇的に変えます。
- 採用への貢献: 会社説明会に訪れた学生や求職者に「人を大切にし、環境を整えている会社」という視覚的なメッセージを伝えます。
- 近隣住民との調和: 工場周辺の美化は、地域住民への最高の貢献です。愛知の「ものづくり」が、単に物を作るだけでなく、地域の豊かさを作っているというブランド価値を創出します。
2.福利厚生と雇用を両立する「社内カフェ・ショップ」運営

工場のリフレッシュスペースや食堂の一角を、障害者社員が運営する「社内カフェ」や「ショップ」として再生させる動きが愛知県内でも広がっています。これは単なる売店ではなく、現場で働く社員たちの「心のインフラ」を整える取り組みです。
社員の憩いの場を自社雇用で運営するメリット
通常、社内の自動販売機や売店は外部業者に委託されますが、ここを「自社雇用」の拠点にすることで、柔軟なサービス設計が可能になります。
- 対面コミュニケーションの創出: 現場社員と障害者社員が「お疲れ様です」「今日のコーヒーおいしいね」といった何気ない会話を交わすことで、社内のダイバーシティ理解が自然な形で進みます。
- 運営コストの福利厚生費化: 外部委託費を支払う代わりに、自社社員の給与として還元。助成金を活用すれば、質の高いカフェ運営を低コストで維持できます。
焼きたてパンや挽きたてコーヒーが、現場社員のモチベーションを上げる
特に交代制勤務や肉体労働が多い製造現場では、「食」の楽しみは最大のモチベーション維持につながります。
- 「農」との連動: 1章で紹介した社内農園で採れたイチゴをスムージーにしたり、カボチャをスープにしたりと、自家製メニューの提供が可能です。
- プロの味を社内で: 最近では、地域の有名コーヒー店やベーカリーと提携し、技術指導を受けるモデルも増えています。「社内で本格的な焼きたてパンが食べられる」という事実は、他社にはない強力な福利厚生となります。
休憩時間の質が上がれば、午後の生産性も向上する
殺風景な休憩室で缶コーヒーを飲む15分と、木のぬくもりを感じるカフェスペースで淹れたての香りに包まれる15分。どちらがリフレッシュ効果が高いかは明白です。
感覚特性を活かして、一杯一杯丁寧にコーヒーを淹れる、あるいはトレイの清掃を徹底するといった「丁寧な仕事」は、カフェのホスピタリティを格段に高めます。社員の脳と体をしっかりと休ませる環境を整えることは、午後のヒューマンエラー防止や作業効率の向上に直結する、戦略的な投資なのです。
3.「ものづくり」を支える周辺業務のプロフェッショナル化
製造ラインの効率を追求すればするほど、その周辺にある「細かな付随業務」が現場社員の負担になっていることがあります。これらを障害者チームが担う「プロフェッショナルなサポート部門」として独立させることで、工場全体の稼働効率を底上げできます。
ヘルメットや作業着のクリーニング・管理の内製化
愛知の製造現場において、安全装備のメンテナンスは命に関わる重要な業務です。しかし、汚れの激しい作業着の洗濯やヘルメットの点検・清掃を、現場社員が交代で行っているケースも少なくありません。
- 清潔感の維持: 専用のクリーニングチームを組織し、毎日清潔な状態で備品を提供します。「自分のために誰かが準備してくれている」という安心感は、現場の安全意識向上にも寄与します。
- 徹底した検品: 決められた手順を忠実に守ることが得意な特性を活かし、装備品の小さな傷や不備を見逃さない「安全の番人」としての役割を確立します。
社内共有車(公用車)の洗車・給油・点検管理
営業車やトラックなど、多くの車両を保有する工場では、その美観と管理も大きな課題です。
- 「走る看板」を磨き上げる: プロの洗車技術を習得したチームが、定期的に公用車を磨き上げます。常にピカピカの車両で取引先を回ることは、企業の信頼性向上に直結します。
- 管理業務の代行: 給油のチェックやタイヤの空気圧確認、車検時期の管理など、ドライバーが忘れがちな「車両管理」を一括して引き受けることで、事故のリスク低減に貢献します。
ノベルティの木工加工や記念品製作:地域伝統工芸との連携
愛知には木工や陶磁器などの豊かな伝統工芸があります。工場の端材を活用したり、地域の職人と連携したりして、自社オリジナルのノベルティを製作する試みも注目されています。
- 「工芸」×「雇用」: 集中力を要する微細な加工や、手作業による仕上げ業務は、職人的な適性を持つ障害者社員の活躍の場となります。
- ストーリーのある記念品: 「自社工場で、地域の人たちが心を込めて作った記念品」は、株主や取引先への最高の手土産になります。単に既製品を買うのとは違う、愛知の企業としての「誇り」を形にする仕事です。
4.成功への鍵:外部専門機関(特例子会社・支援センター)との連携

「農業やカフェなんて、うちは素人だ。管理できる人間がいない」と、足踏みする必要はありません。愛知県には、製造業と福祉を繋ぐ支援体制が整っています。自社だけで完結させようとせず、外部の知恵を借りることが成功への最短ルートです。
農業や飲食のノウハウがなくてもスタートできる「伴走型支援」
新しい職域を開拓する際、最も心強いのが「農福連携コーディネーター」や「就労支援機関」の存在です。
- 技術指導の外部委託: 農業であれば、地域の農家やシルバー人材センターから「指導員」を招くことができます。栽培計画の立案から土づくりまでプロの指導を受けることで、未経験の社員でも失敗なくスタートできます。
- ジョブコーチの活用: 飲食や清掃の現場では、ジョブコーチが工程の切り出しやマニュアル作成を支援してくれます。「製造業のロジック」を「福祉の現場」へ翻訳してくれる通訳者のような存在を活用しましょう。
季節変動のある外作業と、通年の屋内作業を組み合わせた「マルチタスク設計」
農福連携の課題は、天候や季節によって仕事量が変わることです。これを解決するのが、製造業が得意とする「工程設計」の視点です。
- ハイブリッド型の働き方: 晴れの日は屋外での農作業や緑化管理を行い、雨の日や冬場は屋内で「3章」で紹介したような作業着の補修、ノベルティ製作、書類のスキャン、データの入力といった事務サポートを行います。
- 平準化の知恵: 年間カレンダーを作成し、繁忙期と閑散期を組み合わせることで、障害のある社員に「安定した仕事」を提供し続けることができます。
愛知県内の先進事例:実際に動いている工場の「農福連携」モデル
愛知県内には、すでにこのモデルを成功させている先駆的な企業がいくつもあります。
- 自動車部品メーカーの事例: 工場の敷地内に大規模なビニールハウスを設置。そこで育てたトマトを社内販売するだけでなく、地元の学校給食へ提供。地域との繋がりが深まり、地元の学生からの採用応募が増えるという副次的効果も生んでいます。
- 機械メーカーの事例: 特例子会社(障害者雇用を目的とした子会社)を設立し、グループ全体の清掃・緑化・カフェ運営を一手に引き受ける「シェアードサービス」を展開。障害者雇用率の達成と、グループ全体の福利厚生の質向上を同時に実現しています。
5.導入のメリット:ESG投資・SDGsへの具体的なアプローチ
愛知の製造業にとって、今やESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsへの対応は、取引先からの信頼を得るための「必須科目」です。農福連携や職域開拓を通じた障害者雇用は、これらの課題に対する最も目に見えやすく、説得力のある回答となります。
「地域に開かれた工場」が、近隣住民との良好な関係を築く
かつての工場は、高い塀で囲まれた「閉ざされた空間」でした。しかし、農福連携チームが育てた野菜や花を地域に販売したり、工場見学の際に自社運営のカフェで地域住民をもてなしたりすることで、工場は地域社会の「大切な資産」へと変わります。
- 信頼の構築: 騒音や渋滞といったネガティブな側面だけでなく、「おいしい野菜をくれる」「いつも街をきれいにしてくれる」というポジティブな側面が強調されることで、地域社会との共生が深まります。
障害者雇用を通じた「生物多様性(緑化)」への貢献
環境への取り組み(E)といえば「脱炭素」が注目されがちですが、工場敷地の「生物多様性の保全」も重要なテーマです。
- 環境と福祉の相乗効果: 単なる除草ではなく、地元の在来種を植え、鳥や昆虫が訪れる「バタフライガーデン」や「ビオトープ」を障害者チームが管理する。これは「社会(S:障害者雇用)」と「環境(E:生物多様性)」の両方に同時に貢献する、非常に高度なESG経営のモデルとなります。
採用ブランディング:多様性を大切にする企業として求心力を高める
現在の学生や若手社員は、企業の「社会貢献姿勢」を驚くほどシビアに見ています。
- 「選ばれる企業」へ: 「障害者雇用枠を埋めるために作業を探している」企業と、「社員の健康と地域のために、農園やカフェを障害者と共に運営している」企業。どちらが魅力的に映るかは明白です。 「弱者に優しい会社は、自分たち(一般社員)にも優しいはずだ」という直感的な信頼感(サイコロジカル・セーフティ)が、優秀な人材の獲得と定着に大きく寄与します。
6.まとめ|愛知の工場が、地域を元気にする「ハブ」になる
愛知県の製造業が培ってきた「ものづくり」の精神は、今や製品をつくることだけにとどまりません。工場の敷地を、多様な人々が役割を持ち、社員や地域住民が笑顔になる「循環の場」へと再定義する時期に来ています。
総括:製造業の枠を広げ、多角的な価値を創造しよう
障害者雇用を「法定雇用率を満たすための義務」として捉えると、どうしても既存のラインに無理やり当てはめるような発想になり、現場の負担感だけが増してしまいます。
しかし、今回ご紹介した「農福連携」や「周辺業務の内製化」のように、製造業の枠を少しだけ広げてみてください。
- 土地を活かす:遊休地を農園や緑地へ
- 施設を活かす:食堂や休憩室をカフェやショップへ
- ノベルティを活かす:端材や技術を地域ブランドへ
これらの「ラインの外」での取り組みは、障害者にとっての働きやすさ(バリアフリー)だけでなく、既存社員の満足度(ウェルビーイング)や、地域社会からの信頼(ソーシャル・キャピタル)を同時に生み出します。愛知の工場は、もはや単なる「生産拠点」ではなく、地域を元気にする「ハブ(中心地)」へと進化できるのです。
最後に:貴社の敷地と特性を活かした「新職域プラン」をご提案します
「うちの工場なら、どんなことができるだろう?」「この空きスペースで農業は可能か?」 そんな疑問が浮かんだら、ぜひ私たちにお声がけください。
私たちは、愛知県内の地域特性や製造現場のリアリティを熟知しています。単なる人材紹介ではなく、貴社の敷地条件や事業内容に合わせた「職域の切り出し」から、外部専門家とのマッチング、助成金の活用アドバイスまで、トータルでサポートいたします。
愛知が誇る「ものづくり」の現場から、誰もが主役になれる「価値づくりの現場」へ。新しい一歩を、共に踏み出しませんか。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







