- お役立ち情報
- 仕事探し・キャリア準備
- 健康と生活の両立
- 働き方・職場での工夫
【共生社会ガイド】聴覚障害者が直面する「見えない差別」の解消戦略と企業の合理的配慮

この記事の内容
はじめに:聴覚障害と共生社会。差別をなくし、誰もが安心して暮らせる環境づくり

「共生社会」の実現には、「聞く・話す」というコミュニケーションの壁をなくすことが不可欠です。しかし、聴覚障害を持つ方々は、日常生活や就労の場で、いまだ多くの困難に直面しています。
記事の導入:聴覚障害のある人が直面する日常生活・社会参加の困難に触れる
聴覚障害者が直面する困難は、単に「音が聞こえない」という問題に留まりません。
- 情報へのアクセス: 病院の呼び出し、駅の緊急アナウンス、会議での発言など、情報が音声に依存しているために、情報格差が生じます。
- 社会的な孤立: コミュニケーションの困難さから、会話の輪から取り残され、職場やコミュニティでの孤立感を深めてしまうリスクがあります。
- 「見えないバリア」: 外見からは障害が分かりにくいため、「聞き返すこと」が「やる気がない」と誤解され、無理解や偏見といった「見えない差別」に苦しむ現状があります。
記事の結論:「情報バリアを取り除く環境づくり」が、共生社会実現の鍵である
この壁を壊し、誰もが安心して暮らせる社会を実現する鍵は、「差別をなくす」という意識改革と、「情報バリアを取り除く環境づくり」という具体的な行動にあります。
- 目標: 聴覚障害を「個人の問題」ではなく、「社会の構造的なバリア」の問題と捉え直し、ICTツール(リアルタイム字幕など)と合理的配慮を積極的に活用することで、情報保障を徹底することです。
このコラムを通じて、企業も個人もが取り組むべき戦略を知り、聴覚障害者が安心して活躍できる社会を目指します。
1. 聴覚障害とは?社会的な位置づけと「誤解」の構造
聴覚障害は、その定義が医学的なものに留まらず、社会的なバリアによって困難が増幅されるという特性を持ちます。この構造を理解することが、差別解消の第一歩となります。
聴覚障害の定義と多様性
聴覚障害を持つ人々は、聞こえの程度やコミュニケーション手段において多様な状態にあります。
- 聴覚障害の定義と多様な状態: 聴覚障害とは、単に音が聞こえにくい状態ではなく、聞こえの不自由さが社会生活、学習、または就労に影響を与えるレベルに達している状態を指します。
- 難聴: 聴力が低下している状態の総称。多くは補聴器で聞こえを補助できますが、騒音下での聞き取りに困難を伴います。
- ろう: 生まれつき、または幼少期に高度な聴力低下があり、手話を主要な言語とする文化を持つ人々を指します。
- 人工内耳利用者: 手術により聴覚機能を補助する人工内耳を装用している人々です。
- 聴覚障害者の割合と高齢化に伴う増加の現状: 日本における聴覚障害を持つ人の割合は、身体障害者手帳交付者数で見ると約34万人(人口の約0.3%)ですが、加齢による難聴者を含めると、聞こえに困難を抱える人口はさらに多く、高齢化に伴い増加傾向にあります。
社会的な誤解と偏見
聴覚障害は「見えない障害」であるため、誤解や偏見が生じやすく、これが社会的なバリアを形成しています。
- 「話せない」「働けない」といったステレオタイプ: 聴覚障害を持つ人に対し、「言葉が話せない」「知的能力が低い」「電話ができないから事務職には就けない」といったステレオタイプが根強く残っています。これは、聴覚情報に依存する社会の構造的な問題です。
- 聴覚情報に依存する社会の構造的な問題: 社会のシステム(例:駅のアナウンス、会議での口頭指示)が「聞こえること」を前提としているため、聴覚障害者の能力ではなく、社会の仕組みが彼らの社会参加を妨げています。
- 問題の本質: 障害の困難は「個人の機能の欠損」ではなく、「情報保障という環境の欠如」にあるという「障害の社会モデル」の視点が必要です。
これらの誤解を解消し、情報保障を徹底することこそが、共生社会実現の鍵となります。
2. 聴覚障害者が直面する「見えない差別」と不利益
聴覚障害者が社会生活で直面する困難は、個人の能力の制約だけでなく、社会の仕組みが「聞こえること」を前提としているために生じる「見えない差別(情報バリア)」が主な原因です。
日常生活での差別例
命に関わる情報や、公的なサービスにおいて、情報が保障されないことは大きな不利益となります。
- 公共施設や交通機関での情報不足(アナウンス中心):
- 不利益: 駅や空港での緊急アナウンス、遅延情報、搭乗ゲートの変更などが音声のみで行われるため、聴覚障害者は重要な情報をリアルタイムで得られず、安全や移動に大きなリスクを負います。
- 医療機関での情報保障不足:
- 不利益: 病院での診察、病状の説明、手術の同意など、聞き間違いが許されない重要な場面で、手話通訳者や要約筆記者が配置されず、情報保障が不十分となります。これにより、医療の質や自己決定権が損なわれる可能性があります。
教育現場での課題
情報保障の不備は、子どもの学習機会と成長に直接的な影響を与えます。
- 通訳や支援員が十分配置されていない地域格差:
- 課題: 学校や大学の授業において、手話通訳士やノートテイク(要約筆記)の支援員の配置が地域や学校によって不足している現状があります。
- 影響: 授業内容をリアルタイムで正確に理解できないため、学習の遅れや、クラスでの孤立を招く原因となります。
- ICT活用が進んでいない地域格差:
- 課題: UDトークや補聴援助システム(FMシステム)といったICT(情報通信技術)の導入が遅れている教育現場が多く、子どもが最新の技術による情報保障の恩恵を受けられない状況があります。
就労現場での差別・課題
企業側の「コミュニケーションへの誤解」が、能力のある人材の採用を妨げています。
- 電話業務が前提の求人:
- 課題: 事務職や専門職の求人で、電話応対が必須業務とされていることが多くあります。聴覚障害を持つ社員は、この電話の壁が原因で、能力のある職種への応募を諦めざるを得ない状況にあります。
- 「コミュニケーションが難しい」という誤解から採用を見送られる実態:
- 課題の正体: 企業側がUDトークやチャット、筆談といった合理的配慮を検討する前に、「コミュニケーションが難しい」という先入観だけで採用を見送ってしまうケースが依然として多くあります。これは、聴覚障害者の視覚的な集中力や正確な情報処理能力を活かす機会を、企業側が自ら失っていることを意味します。
これらの不利益を解消するため、次の章では「情報保障の拡充」という具体的な戦略を解説します。
3. 共生社会を実現するために必要な「情報保障」の拡充

聴覚障害者が社会に参加し、安心して生活するためには、「情報保障」、すなわち音情報を視覚情報に変換する仕組みをあらゆる場面で拡充することが不可欠です。これは、差別解消法に基づく合理的配慮の中核をなす要素です。
情報保障の具体的な手段
会話や講演の内容をリアルタイムで文字や手話に変換する手段の導入が求められます。
- 手話通訳・要約筆記・音声認識アプリの活用(UDトークなど):
- 手話通訳: ろう者(手話を母語とする聴覚障害者)にとって不可欠な情報保障手段です。行政手続き、病院の診察、重要な会議などで、専門の手話通訳士の配置を促進する必要があります。
- 要約筆記: 音声情報を要約し、文字として提供するサービスです。聴覚障害の程度や背景に関わらず、多くの人が情報を把握するのに役立ちます。
- 音声認識アプリの活用: UDトークや、スマートフォン・PCに搭載されたリアルタイム字幕機能など、ICTツールを活用することで、個人でも気軽に会話の内容を文字化できるようになりました。公的な会議や講演会でも、これらのツールを公式な情報保障として採用し、スクリーン表示を徹底することが重要です。
公共の場での視覚情報の強化
緊急時や不確実な情報伝達の場面において、視覚と触覚に訴える仕組みが必要です。
- 駅や病院での字幕・掲示の強化:
- 強化すべき情報: 電車やバスの遅延情報、ホームの変更、病院の呼び出し、災害時の避難情報など、緊急性が高い情報や流動的な情報について、音声アナウンスと同時に字幕や大型掲示板に表示する仕組みを義務化する必要があります。
- 光や振動によるアラートの導入:
- 安全性確保: 火災報知器、緊急地震速報、病院の呼び出しベルなど、生命や安全に関わる音については、光(フラッシュランプ)や振動(バイブレーター)に変換して伝達するシステムを導入する必要があります。これにより、聴覚障害者が災害や緊急事態に巻き込まれるリスクを大幅に軽減できます。
情報保障の拡充は、「誰でも情報にアクセスできる権利」を保障し、社会的なバリアを取り除く上で、最も具体的で効果的な施策となります。
4. 職場での合理的配慮と定着戦略
聴覚障害を持つ社員が職場で能力を最大限に発揮し、長期的に定着するためには、「コミュニケーションのバリア」を取り除くための合理的配慮が欠かせません。この配慮は、特定の個人への優遇ではなく、チーム全体の生産性を高める戦略的な投資です。
コミュニケーションの明確化
情報伝達を口頭から文字へ移行し、記録に残す文化を確立することが基本となります。
- チャットやメールでの指示共有、業務指示の文書化を徹底:
- 徹底事項: 緊急性の高いものを除き、業務の依頼、変更、進捗確認などは、必ずチャットやメールで行うルールを徹底します。
- 文書化のメリット: 口頭指示のように「言った言わない」のトラブルを防げるだけでなく、指示内容が記録として残るため、聴覚障害を持つ社員は自分のペースで正確に確認でき、業務の正確性が向上します。これは、在宅勤務や時差勤務の社員にとっても有効な仕組みです。
会議・研修でのICT活用
聴覚障害者が情報を取り残されがちな会議や研修では、ICT(情報通信技術)による情報保障が最も効果を発揮します。
- 会議でのリアルタイム字幕サービス(Teams、UDトーク)の導入:
- 実践: Microsoft TeamsやGoogle Meetに標準搭載されているリアルタイム字幕機能、あるいはUDトークなどの音声認識アプリを会議時に常に使用します。発言内容が即座に画面に文字表示されることで、情報へのアクセスを保障します。
- 研修: 集合研修などでは、手話通訳または要約筆記の手配を行うとともに、スライド資料を事前に共有することで、内容を視覚的に把握できるように配慮します。
緊急時の安全確保
職場における安全確保は、企業に課せられた重要な責任であり、聴覚障害者にとって見逃されがちなリスクへの対応が求められます。
- 緊急時の光・振動アラームの設置、避難経路の視覚化:
- 警報: 火災報知器や緊急時の警報装置に、光(ストロボフラッシュランプ)や振動を伴うアラートシステムを導入します。聴覚的な警報が聞こえなくても、視覚や触覚で異常を即座に察知できるようにします。
- 避難: 災害時や緊急時の避難経路について、図や標識を分かりやすく掲示し、避難誘導員が聴覚障害者の存在を認識して非言語で誘導する体制を整えます。
これらの配慮は、単なる福祉的な対応ではなく、社員一人ひとりの生産性と安全を確保するための、現代の職場に不可欠なインフラと位置づけられます。
5. 行政の施策と企業の取り組み事例
共生社会の実現は、個人の努力だけでなく、法律(行政)の後押しと、それを現場で実践する企業(組織)の行動が揃うことで加速します。ここでは、最新の法改正と、企業が実践する具体的な取り組み事例を紹介します。
障害者差別解消法の改正内容と企業の対応
行政の施策は、企業の「合理的配慮」への取り組みを「努力義務」から「法的義務」へと引き上げました。
- 「合理的配慮の提供」が義務化された影響と、企業が取るべき行動:
- 義務化の影響: 2024年4月に改正された障害者差別解消法により、民間事業者による合理的配慮の提供が、これまでの「努力義務」から「法的義務」へと変わりました(※事業者の規模によって適用時期に猶予あり)。
- 企業の責任: 企業は、聴覚障害を持つ社員から配慮の要望があった際、過重な負担にならない限り、拒否することはできなくなりました。
- 企業が取るべき行動: 配慮のノウハウ(UDトーク、筆談マナー、光アラームなど)をマニュアル化し、現場のマネージャー層に必須の研修を行うことで、法的な義務を果たす体制を整える必要があります。
企業の取り組み事例:合理的配慮の実践
優良企業は、聴覚障害を持つ社員の特性を「強み」として捉え、具体的な技術投資を行っています。
- IT企業での字幕会議導入:
- 事例: 多くのIT企業では、UDトークやTeamsの字幕機能を活用した「字幕付き会議」を標準化しています。これにより、聴覚障害を持つ社員だけでなく、在宅勤務者や多忙で聞き漏らしやすい社員の情報保障も同時に実現し、全社員の生産性を向上させています。
- 製造業での安全管理体制の工夫:
- 事例: 騒音の多い製造現場では、光アラーム付きの火災報知器や、フォークリフトに接近を知らせるランプを設置するなど、視覚的な安全対策を徹底しています。
- 聴覚特性を活かした業務配置の事例:
- 事例: 聴覚情報に依存しない「データの整合性チェック」「文書校正」「緻密な検品作業」など、高い視覚的な集中力が求められる業務に聴覚障害を持つ社員を配置し、その正確性を企業の品質向上に直結させています。
これらの取り組みは、合理的配慮が企業のコンプライアンスだけでなく、業務効率と品質を高めるための戦略的な投資であることを証明しています。
6. 本人と周囲の協力:日常生活でできる工夫

共生社会の実現は、法律や企業の仕組みだけでなく、私たち一人ひとりの日常生活での小さな協力によって成り立ちます。聴覚障害を持つ本人、そして周囲の人々が、お互いに歩み寄るための具体的な工夫を紹介します。
日常生活でのちょっとした配慮:意識を変える
特別なツールを使わずとも、コミュニケーションの「マナー」を変えるだけで、情報保障は大きく改善します。
- 目を見て話す/筆談を提案する/話すスピードを落とすといった基本的なコミュニケーションマナー:
- 正面を向く: 話しかける際は、必ず相手の正面に立ち、アイコンタクトを取ってから話し始めましょう。口の動き(読唇)や表情が重要な情報源になります。
- はっきり、ゆっくり: 大声を出す必要はありませんが、はっきりとした発音で、少しスピードを落として話しましょう。早口や早すぎる専門用語は避けましょう。
- 筆談の提案: 聞き取りにくい様子であれば、すぐに「筆談しましょうか?」と提案しましょう。紙やスマートフォンのメモ機能で文字に起こすだけで、誤解が解消します。
本人の工夫と自立支援:助けを求めるスキル
聴覚障害を持つ本人も、自ら情報格差を埋めるための積極的な努力が必要です。
- 生活の中でのアプリ・補聴援助機器の活用:
- 補聴機器: 補聴器や人工内耳を適切に調整し、常時装用することで、音のインプットを最大限に確保します。
- アプリ活用: スマートフォンに音声認識アプリ(Google翻訳、UDトークなど)をインストールし、会話や会議の内容をリアルタイムで文字化する習慣をつけましょう。
- 困りごとを「こうしてくれると助かる」と具体的に伝える方法:
- アサーション: 「聞こえません」と伝えるだけでなく、「〇〇さんの声は聞き取りやすいのですが、△△さんの声は聞き取りにくいので、チャットで送っていただけると助かります」といったように、「困りごと」と「解決策」をセットにして、具体的かつ論理的に周囲に要望を伝えましょう。
家族・支援者の役割:過度な介入を避ける
最も身近な存在である家族や支援者は、「代弁者」になりすぎないことが大切です。
- 情報補完だけでなく、本人の自立を促す支え方:
- 自立の促進: 本人の意向を無視して情報を全て代弁したり、代わりに電話をしたりといった過度な介入は、本人の自立的なコミュニケーション能力の成長を妨げます。
- 適切な支援: 必要な情報が伝わっていない時や、危険な状況にある時のみさりげなく情報補完を行い、普段は本人が自分で交渉し、自分で解決策を見つけることをサポートする「伴走者」としての役割に徹することが求められます。
7. まとめ:共生社会を実現するために私たちができること
本記事を通じて、聴覚障害者が直面する「聞く・話す」のバリアは、個人の能力不足ではなく、社会の仕組みと無理解によって生じていることが明らかになりました。共生社会の実現は、法律や技術だけでなく、私たち一人ひとりの「意識的な行動」にかかっています。
記事の要約:工夫と理解が、社会のバリアを取り除く
聴覚障害者が直面する差別は「工夫と理解」で大きく軽減できます。共生社会の実現には、制度だけでなく日常的な配慮が欠かせません。
- バリアの正体: 困難は、電話や会議における音声情報への過度な依存から生まれています。
- 解決の鍵: ICTツール(UDトーク、リアルタイム字幕)の活用と、業務指示の文書化といった視覚的情報保障を徹底することで、情報バリアは解消されます。
- 文化の醸成: 制度(合理的配慮)が機能するためには、職場全体で「聴覚情報に依存しないコミュニケーション文化を醸成し、心理的安全性を確保することが不可欠です。
読者へのメッセージ:障害者マークの理解と「小さな気配り」
あなたの「小さな気配り」が、聴覚障害者も含めた誰もが安心できる社会を作る一歩になることを力強く伝えます。
- 障害者マーク(耳マーク)の理解と尊重: 聴覚障害を示す耳マーク
を見かけたら、それは「配慮が必要なサイン」であると認識してください。
- 実践すべきこと: 「大声ではなく、目を見て、ゆっくり話す」「筆談を提案する」—このシンプルな行動が、コミュニケーションの壁を壊す最も温かい一歩となります。
- 意識の転換: 「お互いさま」の精神で、誰もが情報を共有し、安心して暮らせる社会を、私たち全員の協力で築いていきましょう。
次のステップ:行動を始める
- UDトークの体験: スマートフォンにUDトークやリアルタイム字幕アプリをインストールし、会話を文字化する体験をしてみましょう。
- 職場での提案: 職場の会議で、「UDトークの字幕機能を試してみませんか?」と提案し、情報保障の環境づくりに貢献しましょう。
コミュニケーションマナーの実践: 会話の際は、相手の目を見て、はっきりと話すマナーを意識して実践しましょう。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。







