2025/08/23
  • 仕事探し・キャリア準備

    脳性まひと障害者雇用|企業が知るべき配慮と実際の事例

    はじめに

    日本では、障害者雇用促進法に基づく「法定雇用率」が段階的に引き上げられており、企業が障害者雇用に積極的に取り組むことが強く求められています。その中で注目されるのが「脳性まひ」のある方の雇用です。

    脳性まひは、幼少期から続く運動機能障害を中心とした障害であり、特性を正しく理解することで職場での活躍が十分に可能となります。しかし、身体的な特性や随伴症状がある場合、就労にあたって一定の配慮や環境調整が不可欠です。

    本記事では、企業が知っておくべき脳性まひの特性と、それに基づいた職場での配慮、さらに実際の雇用事例を紹介し、採用担当者や人事部門が安心して受け入れられるポイントを解説します。


    脳性まひとは?仕事に関係する特性

    脳性まひの基本的な特徴(運動機能障害が中心、非進行性)

    脳性まひ(Cerebral Palsy)は、出生前後の脳の損傷によって起こる運動機能障害で、進行性ではありません。つまり、症状そのものが年齢とともに悪化していくことはなく、「今ある状態」が基本的に続きます。

    もちろん、生活習慣や加齢によって体力が落ちたり、二次的な症状が出る可能性はありますが、それは誰にでも起こり得る自然な変化と同じです。したがって、「予期せぬ進行や急な悪化が起こる病気ではない」という点を理解しておくことが大切です。

    身体面での影響(歩行困難、手足の動きの制限、筋緊張など)

    脳性まひは主に運動機能に影響を及ぼし、次のような症状が見られます。

    • 歩行が困難で車いすや杖を利用する場合がある
    • 手足の細かい動きが制限され、作業速度に影響することがある
    • 筋緊張が強く、長時間の同一姿勢が難しい

    これらは「どの程度の補助が必要か」に個人差があり、職務内容や環境調整の工夫によって十分にカバーできます。

    随伴症状(言語障害・嚥下障害・てんかんの併発など)

    脳性まひの方の中には、運動機能障害に加えて以下のような随伴症状を持つケースもあります。

    • 発話が不明瞭になる「言語障害」
    • 食事や飲み込みに影響する「嚥下障害」
    • 一部には「てんかん発作」を併発する場合がある

    これらも適切なサポートや職場理解があれば、日常業務の遂行に大きな支障とはならないケースが多く見られます。

    仕事に影響する可能性のある課題(移動・操作・体力面)

    就労における課題としては、以下が挙げられます。

    • 職場内での移動が大きな負担になる
    • 細かい作業やスピードを求められる業務が難しい場合がある
    • 長時間労働や立ち仕事は体力的に継続が困難

    こうした課題は「環境整備」と「業務内容の工夫」によって改善できます。


    脳性まひのある社員が活躍できる仕事の特徴

    座位中心・反復作業が可能な業務(事務補助、データ入力、検品など)

    長時間の立ち仕事や肉体労働は難しい一方で、座ったまま集中して取り組める業務は得意とする人が多いです。事務補助、データ入力、帳票のチェック、製品の検品などは、正確さや根気を活かせる職務として適しています。

    在宅勤務・リモートワークでできる仕事(ライティング、デザインなど)

    近年はテレワークの普及により、自宅からできる仕事の幅も広がっています。ライティングやデザイン、Web更新、カスタマーサポートなどは移動の負担を軽減しつつ働けるため、脳性まひのある方が力を発揮しやすい分野です。

    専門スキルを活かせる仕事(プログラミング、経理など)

    体力的な制約はあっても、知識やスキルを活かせる仕事であれば大きな活躍が可能です。プログラミング、経理、マーケティング、翻訳など、専門性の高い分野では、能力を十分に発揮し成果を出している例も多くあります。

    体力・移動の負担を減らす配置転換の工夫

    企業側が少し工夫するだけでも大きな働きやすさにつながります。

    • バリアフリー化された職場への配属
    • エレベーターや移動導線に配慮したデスク配置
    • 通勤が負担になる場合は在宅勤務の導入

    このような工夫により、本人が安心して働ける環境を整えることが可能です。

    企業が知るべき配慮ポイント

    物理的環境の整備

    脳性まひのある社員が安心して働くためには、まず職場の物理的環境が大切です。

    • バリアフリー化:スロープ、エレベーター、手すりの設置は基本的なポイントです。
    • トイレや休憩スペース:車いすで利用できる多目的トイレや、体調に合わせて休めるスペースがあることで安心感が生まれます。

    こうした環境整備は一度整えると全社員にとっても快適性が向上するため、長期的に見て企業にとって大きな資産になります。

    業務内容の工夫

    配慮は「特別なこと」ではなく、業務をわかりやすく・やりやすくする工夫です。

    • 作業の分解・マニュアル化:業務を工程ごとに分け、明文化することで取り組みやすくなります。
    • 補助具やICT機器の活用:音声入力ソフト、昇降デスク、補助器具を取り入れることで、身体的な制約を超えて業務効率を高められます。

    これらの工夫は、障害の有無にかかわらず、業務全体の標準化や効率化にもつながります。

    勤務形態の柔軟性

    脳性まひのある方は、通勤や体力の消耗が大きな課題になることがあります。そのため、

    • 時短勤務やフレックスタイム:体調や通院に合わせた働き方を実現できます。
    • 在宅勤務やリモートワーク:移動の負担をなくすだけでなく、集中しやすい環境を整えられる点もメリットです。

    柔軟な働き方を認めることで、長期的な雇用の安定につながります。

    コミュニケーション面での配慮

    脳性まひのある方の中には、発話に時間がかかる人もいます。その場合は、以下のような工夫が有効です。

    • メールやチャットの活用:口頭よりも正確に意思を伝えやすくなることがあります。
    • 支援ツールの導入:コミュニケーションアプリや補助機器を使うことで、やりとりがスムーズになります。

    ただし、多くの方は問題なく会話できるため、必ずしも特別な配慮が必要なわけではありません。重要なのは一人ひとりの特性を理解し、状況に応じた方法を選ぶことです。

    コミュニケーションは一方的な配慮ではなく、双方の工夫によって「伝わる環境」を作ることが大切です。


    企業にとってのメリット

    多様な人材活用による組織の活性化

    障害のある社員を受け入れることで、既存メンバーの視野が広がり、多様性を尊重する文化が育ちます。結果的にチームの連携力や柔軟性が向上します。

    CSR・企業ブランドの向上

    障害者雇用に積極的な姿勢は、社会的責任(CSR)の実践として評価されます。採用活動や取引先への信頼感アップにもつながります。

    従業員全体の働きやすさ改善(ユニバーサルデザイン効果)

    バリアフリー化やICTの導入は、障害の有無を問わず全従業員にとって働きやすさを高めます。例えば、昇降デスクは腰痛持ちの社員にも有効です。

    離職率低下・安定雇用の実現

    適切な配慮を行うことで、本人が長く働き続けられます。その結果、採用・教育コストの削減にもつながり、企業にとっても大きなメリットとなります。


    実際の事例紹介

    大手企業での事例

    ある大手企業では、オフィスを全面バリアフリー化し、脳性まひのある社員を事務補助業務に配置。業務マニュアルを整備することで、数年以上にわたり安定した雇用を実現しています。

    中小企業での事例

    製造業の中小企業では、検品作業に脳性まひのある社員を配置。丁寧さと集中力を活かし、チーム全体の品質向上に大きく貢献しています。

    在宅勤務での事例

    在宅勤務を導入した企業では、脳性まひのある社員がデータ入力を担当。移動負担がなくなったことで体調も安定し、長期雇用につながっています。

    ジョブコーチや支援機関を介して定着した例

    採用後にジョブコーチ(職場適応援助者)が入り、職場の理解を深めるサポートを実施。結果として、社員本人と職場双方が安心できる環境となり、定着率が大幅に改善しました。

    採用・定着に役立つ制度

    障害者雇用納付金制度と助成金(設備改修・雇用継続の支援)

    障害者を雇用する企業には「障害者雇用納付金制度」に基づき、雇用率達成や環境整備に応じて助成金が支給される仕組みがあります。
    例えば、オフィスのバリアフリー改修や特別な設備導入(スロープ、昇降デスク、ICT機器)にかかる費用の一部を補助する制度があります。また、雇用継続を目的とした助成金もあり、企業が長期的な受け入れをしやすくなる支援策が整っています。

    ジョブコーチ制度(職場定着のサポート)

    「ジョブコーチ」とは、職場に入り込み、本人と企業の双方をサポートする専門員のことです。
    業務手順の工夫や職場内のコミュニケーション改善を行い、障害のある社員が安心して働き続けられるよう支援します。採用後の「定着率」を高める大きな効果があり、中小企業でも積極的に活用されています。

    障害者トライアル雇用制度(短期実習からの採用)

    「いきなり本採用」ではなく、まずは数か月間のトライアル雇用からスタートできる制度です。

    企業にとっては、

    • 実際の適性や働きぶきを確認できる
    • どのような配慮が必要かを現場で把握できる
      という大きなメリットがあります。

    一方で本人にとっても、

    • 職場の雰囲気や人間関係を実際に体験できる
    • 自分に合うかどうかを安心して判断できる
      という利点があります。

    このように、採用前に「お試し期間」を設けることで、企業・本人双方にとってミスマッチを防げるのが大きな強みです。実際に、この制度を活用してそのまま本採用につながるケースも数多く報告されています。

    特に初めて障害者雇用に取り組む企業にとっては、「まずは挑戦してみる一歩」を後押ししてくれる制度として非常におすすめです。


    まとめ|配慮と工夫で脳性まひのある人は戦力になれる

    脳性まひは進行性の病気ではなく、適切な配慮や環境整備をすれば、多様な業務で力を発揮できる特性を持っています。採用と定着を成功させるカギは、企業が特性を理解し、働きやすい職場環境を整えることにあります。

    実際の事例でも、事務作業や検品、在宅でのデータ入力など、さまざまな分野で脳性まひのある社員が長期的に活躍しています。これは「特別扱い」ではなく、合理的な配慮によって本人の力を最大限に引き出す取り組みの成果です。

    企業にとって障害者雇用は義務ではなく、多様性を取り入れ組織を成長させるチャンスです。脳性まひのある方を採用することは、チーム全体の視野を広げ、働きやすい職場づくりを加速させます。

    そして、求職者にとっても「自分の強みを発揮できる環境は必ずある」という希望につながります。
    企業と本人が協力して歩み寄ることで、長期的に安心して働ける未来が実現できるのです。

    障害者雇用は「配慮」から始まり、やがて「戦力」へとつながります。脳性まひのある人材を迎え入れることは、企業にとっても社会にとってもプラスの循環を生み出す大切な一歩となるでしょう。

    投稿者プロフィール

    八木 洋美
    自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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