2025/12/22
  • カテゴリー
  • 仕事探し・キャリア準備
  • 働き方・職場での工夫
  • 障害者雇用 付随業務
  • 障害者雇用 業務の見直し

製造現場で見落とされている「お宝業務」の探し方|障害者雇用で現場のボトルネックを解消し、生産性を高める職域開発の極意

この記事の内容

はじめに:障害者雇用の最大の悩み「任せる仕事がない」は本当か?

愛知県内のメーカー企業様を訪問する際、人事担当者や現場責任者の方から最も多く寄せられる相談が、「雇用しなければならないのは分かっているが、そもそも任せる仕事がない」という悩みです。

特に自動化が進んだ最新の工場や、少人数でマルチタスクをこなしている現場ほど、「障害のある方に切り出せるような単純作業はもう残っていない」と考えがちです。しかし、本当にそうでしょうか。実は「仕事がない」のではなく、「戦力としての仕事の探し方」を知らないだけというケースが非常に多いのです。


「仕事を作る」という発想が、現場を苦しくさせている

「障害者のために、新しく仕事を作らなければならない」 この思い込みこそが、障害者雇用を停滞させる最大の原因です。

無理に新しい仕事(付随的業務や軽作業)を作り出すと、現場には「本来不要だった管理工数」が発生し、結果として組織全体の生産性を下げてしまいます。また、任された本人も「誰の役にも立っていない仕事」に従事し続けることでモチベーションを失い、早期離職に繋がるという悪循環に陥ります。

視点の転換:熟練工や事務職が「本来やるべきではない業務」に宝が眠っている

今、必要なのは「仕事を作る」ことではなく、既存の業務を「分業する」という視点です。

貴社の熟練工や優秀な事務スタッフの動きを、一日じっくり観察してみてください。本来、彼らが集中すべき「高度な技術判断」や「企画・折衝」の合間に、誰でもできるはずの付随作業や、細かなデータ整理が入り込み、彼らの手を止めていないでしょうか。

  • 職人が工具を探している時間
  • 事務職が古い図面を引っ張り出す時間
  • 管理者が手書き日報をExcelに打ち直す時間

これら「高単価な人材が、本来やるべきではない業務」こそが、障害者雇用における「お宝業務」です。

記事のゴール:現場の生産性を直接引き上げる「職域開発」の3つの切り口

本記事のゴールは、障害者雇用を「福祉」から「生産性向上のための武器」へと変えるための具体的な職域開発手法を提示することです。

具体的には、以下の3つの切り口から、現場に眠る「お宝」の発掘方法を解説します。

  1. 製造現場: 職人の工数を最大化する「付随業務」の切り出し
  2. 間接・事務部門: アナログ業務を解消する「デジタル化支援」
  3. IT・DX推進: 中途採用(エージェント層)が担う「仕組み作り」の職域

「任せる仕事がない」という悩みを解消し、障害者雇用が現場から「助かった!」と感謝されるための具体的なロードマップを、愛知のメーカー事例と共に紐解いていきましょう。

1.製造現場の「お宝業務」:職人の手と時間を止めている雑務を切り出す

製造現場における「職域開発」の第一歩は、熟練工の「手」を止めている時間を可視化することです。職人が本来の付加価値を生む作業(加工・調整・高度な判断)に100%集中できる環境を、障害者社員が周辺業務を担うことで作り出します。


ケース1:工具・治具の管理とメンテナンスのルーチン化

愛知の製造現場では多種多様な工具や治具が使われますが、その管理は「現場の良心」に任せられ、曖昧になりがちです。

紛失防止、定期点検、貸出管理…「誰かがやらねばならない」が後回しになる業務

「誰かがやらなければならないが、忙しくて後回しにされている業務」は、手順をルール化しやすい最高の職域です。

  • 中央管理化: 散在していた工具を定位置に戻し、貸出・返却を管理する。
  • メンテナンス: 治具の清掃、油差し、消耗品の補充。
  • 効果: 職人が「工具を探す時間」や「準備する時間」をゼロにします。これは現場にとって、実質的に職人を増員したのと同じ価値を持ちます。

ケース2:検査工程の「1次スクリーニング」

すべての検査を熟練工が行うのは、リソースの過剰投資です。ここを「多段構え」にすることで、効率は劇的に向上します。

全数検査の初期工程を切り出し、熟練工は「最終判定」に集中する体制へ

「良品か不良品か」の際どい判断(最終判定)は熟練工が行いますが、その手前の「明らかにわかる異常」を弾く作業を障害者社員が担います。

  • 1次スクリーニング: 外観の大きなキズ、バリ、異物混入などの明らかな不良を仕分ける。
  • 効果: 熟練工の手元に届く製品が「グレーゾーン」のものだけに絞られるため、判定スピードが上がり、精神的な疲弊も軽減されます。

ケース3:端材管理と梱包資材の先行準備

意外と現場のスペースと時間を圧迫しているのが「付随する資材」の扱いです。

  • 端材の計量・整理: 加工後に発生する端材を種類ごとに仕分け、重量を計って記録する作業。
  • 梱包資材のセットアップ: 出荷用の段ボールを組み立て、緩衝材を適切なサイズにカットし、あらかじめセットしておく「先行準備」。
  • 効果: 出荷間際のバタバタした時間帯に、職人が手を止めて段ボールを組み立てる必要がなくなります。

2.間接・事務部門の「お宝業務」:アナログからの脱却を支援する

製造現場の生産性を支える「間接部門」にも、多くの改善の種が眠っています。特に愛知の歴史あるメーカーほど、長年の運用で積み重なった「アナログ業務」が、本来クリエイティブであるべき事務スタッフの時間を奪っています。ここを障害者社員が担うことで、組織のデジタル化を一気に加速させることが可能です。


ケース4:図面・紙資料のデジタルアーカイブ化

長年培われた技術資産である「図面」や「仕様書」。これらが紙のまま保管されていることは、技術伝承や検索性の観点から大きな損失です。

膨大な過去図面の整理とスキャニング、タグ付け作業

この作業は、集中力と丁寧な取り扱いが求められる障害者社員に非常に適した職域です。

  • アーカイブ化: 古い青焼き図面やマイクロフィルムのスキャニング。
  • インデックス作成: 図面番号、顧客名、作成日などをデータ入力し、検索可能な状態にする「タグ付け」。
  • 効果: 設計者が資料室で「紙を探す時間」をゼロにし、技術情報の共有スピードを劇的に向上させます。

ケース5:品質記録・日報のデータ入力と集計

現場で記入される「手書きの日報」や「品質チェックシート」。これが紙のままキャビネットに眠っているだけでは、データとしての価値を発揮しません。

手書き情報のデジタル化により、生産管理のリアルタイム性を高める

  • データエントリー: 日々の生産数、不良率、稼働時間をExcelや管理システムに正確に転記する。
  • グラフ化: 数値を集計し、週次・月次の推移をグラフ化して可視化する。
  • 効果: 管理職が「今の現場の状態」をリアルタイムに近いスピードで把握できるようになり、異常の早期発見や改善の意思決定が早まります。

ケース6:安全衛生・5Sパトロールの記録補助

工場の「安全」と「品質」を守るパトロール業務も、記録の整理が負担になりがちです。

  • パトロールの同行と撮影: 安全担当者に同行し、指摘箇所の写真を撮影・整理する。
  • 是正状況の管理: 修正前・修正後の写真を整理し、報告書としてまとめる。
  • 効果: 安全担当者は「現場の指導」と「対策の検討」という本来の役割に集中でき、形骸化しがちなパトロールが真の改善活動へと進化します。

3.IT・DX推進の「お宝業務」:中途層(エージェント層)が輝く職域

支援学校卒の若手が「現場の基盤」を支える一方で、専門エージェントを通じて採用する「中途層」には、さらに高度な職域が用意されています。彼らの多くは一般企業での実務経験やITリテラシーを持っており、メーカーが喉から手が出るほど欲している「現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)」の旗振り役として活躍できるポテンシャルを秘めています。


ケース7:ノーコードツールを活用した「現場用アプリ」の作成

多くの製造現場では「わざわざシステムを導入するほどではないが、不便なアナログ作業」が無数に存在します。

在庫管理やチェックリストを、中途採用のIT経験者がアプリ化する

IT経験を持つ中途障害者は、プログラミング不要の「ノーコードツール」を使いこなし、現場の不便を自ら解決します。

  • アプリ化の例: スマホやタブレットで完結する「消耗品在庫のバーコード管理アプリ」や「5S点検チェックリスト」の構築。
  • 効果: 現場の社員が「紙に書いて、後でPCに打ち込む」という二度手間を完全に排除します。中途層が「現場の困りごとをヒアリングしてアプリに落とし込む」ことで、現場全体のIT化がボトムアップで進みます。

ケース8:RPA(定型業務自動化)のシナリオ作成と運用保守

事務部門で毎日発生する「データのコピペ作業」や「複数システムへの重複入力」は、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の得意分野です。

  • シナリオ作成: 事務作業のフローを整理し、ロボットが動く手順(シナリオ)を作成・調整する。
  • 運用保守: システムのアップデート等でロボットが止まった際のメンテナンス。
  • 効果: 非常に高い集中力と論理的思考を持つ障害者社員が、全社的な「自動化」の推進エンジンとなります。これにより、数人分の事務工数を削減することも不可能ではありません。

職域の進化:最初は「入力」から、やがて「仕組み作り」へ

中途層の職域開発において重要なのは、彼らを「使い走りの作業員」で終わらせないことです。

  • ステップアップ: 最初は既存のシステムへの「入力(実務)」からスタートしてもらい、業務に慣れたところで「どうすればこの入力をもっと楽にできるか(仕組み作り)」へと役割をシフトさせます。
  • 価値の最大化: 現場の痛みを知り、それをITで解決する。この「改善のサイクル」を回せる人材として彼らを定義することで、障害者雇用は「コスト」をはるかに上回る「利益」を組織にもたらすようになります。

4.失敗しない職域開発のステップ:現場の「困りごと」をアンケート化する

「お宝業務」の理論は分かっても、いざ自社の現場で具体的に何を切り出せばいいのか、頭を抱える担当者は少なくありません。現場に丸投げするのではなく、人事が主導して「現場が本当に欲している助け」を言語化していく仕組みが必要です。


手順1:各部署の「残業時間」と「作業内訳」を棚卸しする

まずは、どの部署に「過剰な負荷」がかかっているかを数値で特定します。

  • ヒアリングのコツ: 「障害者に任せられる仕事はありますか?」と聞くのは厳禁です。そう聞かれると、現場は「教える手間」を連想して「ない」と答えてしまいます。
  • 問いの立て方: 「今の業務の中で、単純だけど時間がかかっているものは何か?」「残業の原因になっている付随作業は何か?」と、現場の苦労に焦点を当ててアンケートを行います。
  • 定量化: 「月20時間かかっている納品書の仕分け」など、具体的な数字が見えると、切り出した際のメリット(コスト削減効果)が明確になります。

手順2:「マニュアル化できるか」ではなく「手順を視覚化できるか」で判断する

切り出す業務を選ぶ際、多くの人が「高度な判断が必要だから無理」と諦めてしまいます。しかし、判断の基準さえ「視覚化」できれば、それは立派な職域になります。

  • 視覚化の基準: 「10ページのマニュアルが必要な仕事」よりも「1枚の写真で良否が判断できる仕事」を優先します。
  • 判断の分解: 「この場合はA、この場合はB」という分岐図(フローチャート)に落とし込める業務であれば、それは障害者社員にとって得意な「ルールに基づく作業」へと変換可能です。

手順3:スモールスタートで「助かった!」という成功体験を現場に積ませる

最初から全社一斉に、あるいは大きな工程をまるごと任せようとすると失敗します。まずは特定の部署で、小さな「困りごと」を解消することから始めます。

  • クイックウィンを狙う: 「散らかっていた工具棚が1日で綺麗になった」「山積みだった伝票が翌朝には入力されていた」といった、即効性のある成果を見せます。
  • 「敵」を「味方」に変える: 導入に懐疑的だった現場の班長が、「彼らが来てから、自分の本来の仕事が早く終わるようになった」と実感した瞬間、社内の空気は一気に変わります。

この「小さな成功」を社内報などで共有していくことで、他の部署からも「うちのあの業務もお願いできないか」と声がかかる好循環が生まれます。

5.まとめ:障害者雇用は、現場の「余力」を生み出すための戦略である

愛知のメーカーにとって、障害者雇用はもはや「義務だから席を用意する」フェーズを終えようとしています。人手不足が深刻化し、熟練工の高齢化が進む今、求められているのは「いかに限られた人的リソースを最適化するか」という経営課題の解決です。


結論:仕事を与えるのではない、現場のボトルネックを肩代わりしてもらうのだ

本記事を通じてお伝えしてきた「職域開発」の本質は、慈善活動ではありません。 「障害のある方でもできる仕事を探す」という受動的な姿勢から、「現場を停滞させているボトルネックを、彼らに肩代わりしてもらう」という能動的な戦略への転換です。

  • 職人の解放: 工具管理や一次検査を切り出すことで、技術者が本来の価値を発揮する時間を生み出す。
  • 組織のデジタル化: 紙資料のスキャンやデータ入力を任せることで、DXの土台となる「情報の整理」を一気に進める。
  • 進化の加速: 中途採用(エージェント層)のITスキルを活かし、現場を楽にする仕組みそのものを構築する。

「仕事を与える」という上からの視点を捨て、現場の「余力」を生み出すための戦略的なパートナーとして彼らを迎える。この視点の差が、数年後の組織の生産性に決定的な違いをもたらします。


メッセージ:愛知のものづくりを強くするために、新しい「分業」の形を始めよう

ものづくりの聖地・愛知。この地で生き残る企業に共通しているのは、変化に対して誰よりも柔軟であることです。

かつて製造現場が手作業から自動化へ、そしてデジタル化へと進化してきたように、今、「人の活かし方」というOS(基本システム)のアップデートが求められています。支援学校卒の若手の「実直さ」と、中途採用者の「専門スキル」を、現場のボトルネック解消にピタリと当てはめる。それは、愛知が築いてきた「分業と協業」の文化を、さらに高い次元へと引き上げる挑戦でもあります。

「任せる仕事がない」と悩むのは、貴社に伸び代がある証拠です。見落とされていた「お宝業務」を掘り起こし、次世代の強い現場を共に創っていきましょう。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
  • バナー