2025/10/03
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障害者雇用で「声をかけにくい」の壁を壊す|信頼関係を築くための3つのコミュニケーション・フェーズ

はじめに|コミュニケーションは「信頼」という名の3段階進化

職場の同僚に障害を持つ方がいるとき、「どう接したらいいか分からない」「失礼になったらどうしよう」という戸惑いはありませんか?現場の同僚が抱えるこの戸惑い(善意の裏返し)が、結果的に相手を孤立させる「腫れ物扱い」につながってしまいます。

しかし、このコミュニケーションの壁は、時間と共に進化する3つのフェーズを踏むことで乗り越えられます。

この記事の結論は、コミュニケーションは進化し、最終的に「障害を意識しない、プロとしての信頼関係」に至るということです。

本記事を通じて、各フェーズでの具体的な接し方と、同僚との信頼を深めるヒントを解説します。


初期段階:対等なプロとしての「ルール確認」

このフェーズは、お互いに相手の仕事の進め方や特性を理解し合うための「土台作り」です。

フェーズ1:腫れ物扱いから「ルール確認」へ

入社直後や初めて一緒に仕事をする際は、「どう接すればいいか分からない」という戸惑いから、「過剰な遠慮」が起こりがちです。これを避けるためには、仕事上の配慮事項を感情ではなく「ルール」として確認することが極めて重要です。

  • 内容: 配慮を「あの人のための特別措置」として捉えるのではなく、「チームの業務を円滑に進めるための仕組み」として捉え直す意識が必要です。
  • 意識の転換: 例えば、「〇〇さんは耳が聞こえにくいから、静かに話さないと」と個人に気を遣うのではなく、「チームのルールとして、重要な指示はすべてチャットで共有する」と仕組み化します。これにより、配慮が「個人への負担」ではなく、「情報伝達の正確性を高めるための改善」へと変わり、誰もが対等なプロとして仕事に集中できます。このルール化が、最初の心理的なバリアを打ち破る鍵となります。

必須のコミュニケーション:「ワンクッション」と「言語化」

この初期段階では、丁寧な確認ルールの明確な言語化が、後の信頼関係を築くための土台となります。

「ワンクッション」の声かけと本人の意思尊重

困っている様子の同僚や、手助けが必要な状況に遭遇しても、まずは本人の意思を尊重する「ワンクッション」の声かけをしましょう。

  • 声かけの基本: 困っていそうでも、まずは「お手伝いしましょうか?」「今話しかけても大丈夫ですか?」と尋ね、相手の「No」を尊重することが重要です。善意で急に手を出したり、車いすを押したりすると、相手の自立心を傷つけたり、かえって危険を招いたりする可能性があります。
  • 身体・携行品への配慮: 相手の身体や携行品(白杖、車いすのハンドル、荷物など)に触れる前に、必ず許可を求めるマナーを徹底しましょう。
    • : 視覚障害を持つ方への誘導の際、腕を急につかむのではなく、「私の肘に触れていただけますか?」と相手に選択権を与えることが、対等な関係を築くマナーです。

配慮事項を「チームのルール」として言語化する

個人の障害特性を「特別な問題」とせず、「チームの業務を円滑にするためのルール」として仕組み化することが、対等な関係を築く鍵です。

  • 「特別措置」からの脱却: 個人の特性に対する配慮を、チーム全体の「業務標準」として共有し、仕組み化しましょう。この視点を持つことで、配慮が「あの人のための特別措置」ではなく、「情報伝達の正確性を高めるための改善」へとポジティブに変わります。
  • 具体的な仕組み化の例: 「〇〇さんへの指示は、聞き間違いを防ぐために必ずチャットで行う」「〇〇さんの集中力を保つため、休憩時間は柔軟に対応する」といったルールは、聴覚障害や精神障害のある社員だけでなく、全社員の聞き間違いや集中力低下を防ぐというメリットをもたらします。このルール化こそが、最初の心理的なバリアを打ち破る最も効果的な方法です。

中期段階:信頼を深める「非業務的な雑談」の力

初期の「仕事上のルール」が定着したら、次は「人間的な信頼」を築く段階です。

フェーズ2:信頼を築く「非業務的な雑談」

初期の「仕事のルール」が定着したら、次は「人間的な信頼」を築く段階です。これは、業務の話だけでなく、日常の話題(趣味、週末の過ごし方、好きな食べ物)を通じて、一人の人間として関係を築くことで心のバリアを壊します。

なぜ雑談が重要なのか

雑談は、単なる暇つぶしではありません。それは、職場の心理的安全性を高めるための戦略的なツールです。

  • 無意識の偏見を外す: 業務以外の共通の話題を見つけることで、「あの人は障害者だ」という先入観が外れ、お互いを「同じ趣味を持つ仲間」「会社の同僚」として認識できるようになります。
  • 心理的安全性の向上: 「〇〇さんは趣味が自分と同じだ」という共通点を持つことで、会話へのハードルが下がり、「この人になら、困ったときに相談しても大丈夫だろう」という信頼感が生まれます。この心理的な距離の近さが、業務上のミスや体調の不安を隠さずに報告できる環境を作り、チームの生産性向上に貢献します。

成熟段階:阿吽の呼吸で働く「察する」コミュニケーションの進化

フェーズ3:プロとしての「阿吽の呼吸」

関係が成熟すると、初期段階の丁寧な声かけは不要になり、お互いの状況が「察し合える」という理想的なチームワークが生まれます。

  • 内容: この段階では、上司や同僚は、相手の表情や態度から「今日は集中力が低いな」「手伝いが必要そうだ」と無言で察することができるようになります。これは、相手の障害特性だけでなく、体調のパターンや仕事のスタイルを深く理解している証拠です。
  • コミュニケーションの進化: 初期の「ワンクッション」の声かけは不要になり、「今、話しかけるべきではない」という判断や、「この業務なら任せられる」という信頼に基づく業務分担が自然に行われます。これは、障害の有無に関わらず、プロフェッショナルとして最も効率的で洗練された連携の形と言えます。

心理的な負担の軽減とキャリアへの影響

この成熟した信頼関係は、社員の心理面と企業の生産性の両方に極めて大きなメリットをもたらします。

  • 心理的な負担の軽減: 助けを求めたり、断ったりする際の心理的な負担が劇的に軽減されます。特に精神障害を持つ社員にとって、「言わなくても理解されている」という安心感は、症状の安定と長期就労に直結します。
  • キャリアへの影響: 「必要な時がわかる」という信頼感が、長期就労チームの生産性向上につながります。企業側は、社員が最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、配慮の最適化を図れるため、結果的にチーム全体の業績アップに貢献します。

まとめ|コミュニケーションの進化が、チームを強くする

「声をかけにくい」「腫れ物扱いしてしまう」という心理的な壁は、悪意からではありません。それは、「どう接したらいいか分からない」という無知から生まれる、善意の裏返しです。

しかし、この壁は、コミュニケーションを「初期」「中期」「成熟期」という3段階で進化させることで、確実に壊せます。

現場の同僚の皆様へ

  • 初期の行動: 腫れ物扱いを恐れず、「ワンクッション」の声かけと、「指示はチャットで」といったチームルールの共有から始めましょう。この言語化が、情報伝達の正確性を高め、チーム全体の生産性を向上させます。
  • 進化の鍵: 業務以外の「雑談」を通じて、一人の人間として信頼関係を築いてください。この信頼こそが、最終的に「阿吽の呼吸」で助け合える、真のチームワークを生み出します。

障害を意識しすぎるのではなく、一人の仲間、一人の「戦力」として尊重し合うことが、誰もが安心して、自分の能力を最大限に発揮できる職場を共に創る唯一の道です。

投稿者プロフィール

八木 洋美
自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。
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