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PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは?原因・症状・治療法・日常生活・仕事との関わり方

はじめに
近年、ニュースやSNSで「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という言葉を耳にする機会が増えています。大きな事故や自然災害、犯罪被害など、命の危険や強い恐怖を感じる出来事を経験した後に、心身に長期的な影響が現れる精神的な障害です。
しかし、PTSDは「一部の特殊な人だけがなる病気」や「気の持ちようで克服できる」といった誤解が未だに根強く残っています。これらの誤解は、本人が適切な治療やサポートを受ける妨げになり、症状を長引かせる原因となることもあります。
本記事では、PTSDの正しい理解と対応法をテーマに、原因・症状・診断基準から治療法、日常生活や仕事での配慮まで、総合的に解説します。2025年最新版の知見を取り入れ、医療関係者や支援者、企業の人事担当者にも役立つ内容をまとめました。
PTSDとは

定義と診断基準(DSM-5)
PTSDは、米国精神医学会が策定した精神疾患の診断基準「DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)」において、命に関わる危険や重大な負傷、性的暴力などの外傷的出来事を経験、目撃、またはその詳細を知った後に発症する精神障害と定義されています。
診断には以下の条件が含まれます。
- 外傷体験後、1か月以上にわたり特定の症状が続くこと
- 症状が日常生活や社会生活、仕事に支障をきたしていること
- 他の精神疾患や薬物使用による症状ではないこと
DSM-5では、症状は大きく「再体験」「回避」「認知・気分の変化」「過覚醒」の4つに分類されます。
発症のきっかけ
PTSDの引き金となる出来事は多岐にわたります。必ずしも直接的な被害者でなくても、深刻な出来事を目撃した場合や、身近な人が被害に遭ったことを知っただけでも発症する可能性があります。
事故・災害
- 交通事故で自身や同乗者が重傷を負った
- 大規模地震や台風、火災などで命の危険を感じた
- 航空機事故や列車事故などの重大インシデントに遭遇した
犯罪被害
- 強盗、暴行、性犯罪などの直接被害
- 銃撃事件やテロなどの現場に居合わせた
- 犯罪現場を目撃してしまった
虐待・暴力
- 幼少期からの身体的・性的虐待
- パートナーや家族からのDV(ドメスティック・バイオレンス)
- 職場でのパワーハラスメントやモラルハラスメント
こうした出来事の衝撃は時間が経っても消えず、心の深い部分に刻まれ続けます。
主な症状

PTSDの症状は、体験した出来事を思い出すたびに強い恐怖や不安が蘇る「再体験症状」や、それを避けるための「回避行動」、心身が常に緊張状態になる「過覚醒症状」、そして認知や気分の変化として現れます。
再体験症状(フラッシュバック)
外傷的出来事の記憶が突然よみがえり、その場にいるかのような臨場感を伴って感じる現象です。例えば、交通事故の被害者が似たような交差点を通るだけで事故の瞬間が頭に浮かび、動悸や息苦しさを感じる場合があります。
悪夢として繰り返し現れることも多く、睡眠の質を著しく低下させます。
回避行動(思い出す場面の回避)
トラウマを思い出すきっかけとなる場所、人物、状況を避ける行動です。例えば、災害の被災者が避難所に近づけない、性犯罪被害者が夜間の外出や人混みを避けるなどがあります。
この回避は一時的に不安を減らす効果がありますが、長期的には社会的孤立や生活の制限につながるリスクがあります。
過覚醒症状(睡眠障害・過敏反応)
常に神経が張り詰めた状態が続き、些細な物音にも驚きやすくなります。夜眠れない、熟睡できない、集中力が低下するといった症状が日常生活や仕事のパフォーマンスに影響します。
認知・気分の変化
トラウマ体験に関連して、自分や他者、社会に対する否定的な考えが強まります。例えば「自分は無力だ」「世界は危険だ」という感覚が続き、喜びや興味を感じにくくなることがあります。自己否定感や孤立感が強まると、うつ病など他の精神疾患を併発する可能性もあります。
原因とリスク要因
PTSDの発症には、単に「強い出来事を経験したかどうか」だけでなく、その人が置かれていた状況やもともとの性格・体質など、複数の要因が関わります。これらの要因を知ることで、予防や早期対応のヒントになります。
トラウマ体験の強度
PTSDは、体験した出来事の衝撃の強さや持続時間と密接に関係します。
- 命の危険を直接感じる出来事(例:交通事故、戦闘、自然災害)
- 繰り返し体験する継続的な暴力や虐待
- 不可避な状況での恐怖(例:監禁、長時間の暴行)
同じ出来事でも、目撃者より直接被害者の方が発症リスクが高い傾向にありますが、目撃による精神的影響も軽視できません。
過去の心理的負荷
過去に虐待やいじめ、重大な喪失体験などを経験している場合、心の防御力が低下しており、新たなトラウマ体験でPTSDを発症しやすくなります。
また、うつ病や不安障害など精神的な不調の既往がある場合も、回復に時間がかかる傾向があります。
遺伝・気質
研究では、ストレス反応に関わる遺伝的要素や気質もPTSD発症に関与している可能性が示されています。生まれつき不安感が強い、感受性が高いといった性格特性がある人は、外傷体験後に症状が長引きやすいとされています。
診断と検査
PTSDの診断は、医師や臨床心理士による問診・心理検査・診断基準の照合を組み合わせて行われます。
診断基準
前述のDSM-5に基づき、外傷体験後に一定期間以上続く症状があり、日常生活に支障をきたしているかどうかを確認します。
- 再体験(フラッシュバックや悪夢)
- 回避行動
- 認知や気分の変化
- 過覚醒症状
これらが1か月以上続いていることが診断の条件です。
心理検査と面接
- CAPS(Clinician-Administered PTSD Scale):PTSDの重症度を評価する面接式検査
- IES-R(Impact of Event Scale-Revised):自己記入式で症状の有無と強さを測定
- PCL-5(PTSD Checklist for DSM-5):診断基準に基づく自己評価表
医師や心理士はこれらの結果と生活状況を総合的に判断して診断を下します。
治療法
PTSDの治療は、心理療法と薬物療法を組み合わせることが多く、症状の種類や重症度に応じて選択されます。
認知行動療法(トラウマ焦点療法)
トラウマ記憶に向き合い、それに伴う誤った認知(「自分は無力だ」「世界は危険だ」など)を修正していく療法です。
- 持続エクスポージャー法:安全な環境で少しずつトラウマ記憶を思い出し、不安を軽減
- 認知再構成法:出来事に対する捉え方を現実的で前向きなものに変えていく
EMDR(眼球運動による脱感作)
Eye Movement Desensitization and Reprocessingの略で、左右の眼球運動を行いながらトラウマ記憶を思い出すことで、感情的な苦痛を和らげる方法です。世界保健機関(WHO)や米国退役軍人省でも有効性が認められています。
薬物療法(抗うつ薬など)
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):不安や抑うつ症状の軽減
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬):意欲低下や過覚醒症状の緩和
- 睡眠障害が強い場合は睡眠導入薬を短期間使用することもあります
薬は症状を根本的に消すものではなく、心理療法を行いやすくするための補助的な役割を果たします。
日常生活での工夫

PTSDの症状を和らげ、生活の質を高めるためには、日常の中でできる小さな工夫の積み重ねが重要です。
安心できる環境づくり
- 物理的な安全確保:鍵や防犯カメラの設置、避難経路の確認など、安心感を高める工夫
- 刺激のコントロール:騒音や強い光など、症状を誘発しやすい環境要因を減らす
- 自分だけのリラックススペース:お気に入りの香りや音楽、照明を使った空間づくり
例:交通事故後、車の音に過敏になった人が、防音カーテンや耳栓を活用して落ち着ける空間を確保する。
睡眠・食事の安定化
- 毎日同じ時間に寝起きする習慣
- 寝る前のスマホやカフェイン摂取を控える
- 栄養バランスの取れた食事を意識する(特にビタミンB群、オメガ3脂肪酸など脳の健康に良い食材)
例:寝る前30分は照明を暗くし、深呼吸や軽いストレッチで入眠しやすくする。
信頼できる人との関係構築
- 何でも話せる相手や相談できる窓口を持つ
- 信頼できる人に症状や対応方法を共有しておく
- 無理せず、少しずつ人間関係を広げる
仕事との関わり
発作・フラッシュバック時の対応
- 事前に職場で理解のある人へ症状を説明しておく
- 発作時は安全な場所に移動し、深呼吸やグラウンディング(五感を使って「今ここ」に意識を戻す方法)を実践
- 発作後は無理に仕事を続けず、休憩を取る
向いている職場環境
- 静かで落ち着いた作業スペース
- 業務内容が安定していて突発対応が少ない
- 在宅勤務やフレックスタイムが可能な職場
例:事務職、データ入力、Web制作、図書館業務など
避けたほうがよい職場環境
- 騒音や人混みが多い場所
- 突発的な対応や緊急性の高い業務が頻発する職場
- 身体的・精神的に負荷の大きい現場(例:危険作業、夜勤、長時間労働)
支援制度
障害者雇用枠
- 精神障害者保健福祉手帳を取得することで利用可能
- 配慮のある職場環境や定着支援を受けられる
自立支援医療
- 精神科通院にかかる医療費の自己負担を軽減(通常3割→1割)
- 治療継続の経済的負担を軽くする制度
心理カウンセリング補助
- 一部の自治体や企業では、カウンセリング費用の補助制度を用意
- EAP(従業員支援プログラム)を導入している企業も増加中
まとめ 〜当事者へのメッセージ〜
PTSDは、決して「弱さ」や「性格の問題」ではありません。誰にでも起こり得る心の反応であり、適切な治療と環境調整によって回復は可能です。
今は症状で生活が制限されていても、少しずつ安心できる時間や場所を広げていくことができます。焦らず、一歩ずつ前に進むことが大切です。
そして、もし周囲に理解者がいないと感じても、医療機関や支援団体は必ずあなたの力になってくれます。「助けを求めることは弱さではなく、回復への第一歩」です。あなたの人生は、まだ多くの可能性に満ちています。
投稿者プロフィール
- 自身も障害を持ちながら働いてきた経験から、「もっと早く知っていればよかった」情報を多くの人に届けたいと考えています。制度や法律だけでなく、日々の仕事の工夫や心の持ち方など、リアルな視点で役立つ記事を執筆しています。









